専利の権利確定プロセスにおける「更なる限定」の補正に関す る審査、専利の権利確定プロセスにおける請求項の補正に関す る「応答」の要求

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[ 2024-06-21 ]

――(2021)最高法知行終 556、581、738 号

裁判要旨

 

1.専利の権利確定プロセスにおいて、ある請求項に対する補正が「更なる限定」に該当するか否かの審査 は、補正後の請求項が原請求項のすべての技術的特徴をすべて包含しているか否か、補正後の請求項は原請 求項に対して技術的特徴を追加したか否か、かつ追加した技術的特徴が原請求の範囲における他の請求項に 記載されたものであるか否かに準ずる。

 

2.専利の権利確定プロセスにおいて、請求項の「更なる限定」に該当する補正は、一般的に無効審判で指摘 された理由に応答する場合に限られる。無効審判に指摘された欠陥を克服するという名目で、実に請求項を 再構成する補正に対して却下することができる。

 

キーワード 

 

行政 特許権の無効審判 請求項の補正 更なる限定 応答

 

経緯の概要 

 

北京某森科技有限公司(以下、某森公司と略称する)は、特許番号が 200480036270.2 であり、名称が「顔画 像取得方法、顔認識方法及びシステム」である特許の特許権者である。2018 年 10 月 8 日、某コンピュータ 貿易(上海)有限公司(以下、某コンピュータ上海公司)、某貿易(上海)有限公司南京分公司(以下、某貿 易南京分公司)、某貿易(上海)有限公司(以下、某貿易上海公司)はそれぞれ本特許権に対して無効審判を 請求した。某森公司は 2019 年 5 月 9 日、本特許の請求の範囲の補正書を提出した。これに対して国家知識産 権局は 2019 年 5-6 月に第 40531、40532、40533 号の無効審判の審決を下し、本特許の補正後の請求項 1-3、 5、6、及び請求項 8-10 の請求項 1、5 を引用した場合の発明(すなわち補正後の関連請求項を指し、以下同 じ)は「中華人民共和国専利法施行細則」(以下、専利法施行細則と略称する)第六十九条第一項及び「専利 審査指南」第四部第三章第 4.6 節の規定を満たし、補正後の請求項 4、7、11、12、及び請求項 4、7 を引用 した請求項 8-10 は上記の規定を満たさないと認定された。したがって、被訴決定は、某森公司が 2019 年 5 月 9 日に提出した請求の範囲における請求項 1-3、5、6、及び請求項 8-10 の請求項 1、5 を引用した場合の 発明を審査対象とし、上記の審査対象とされる請求項は進歩性を備えないと認定し、本特許にかかる発明を 全部無効とした。某森公司は不服で、北京知識産権法院に訴訟を提起し、被訴決定を取り消し、国家知識産 権権局により改めて審査することを求めた。

 

北京知識産権法院は 2020 年 12 月 30 日に(2018)京 73 行初 10897、10895、10896 号の行政判決を下した: 某森公司の訴訟請求を棄却する。某森公司は上訴を提起し、最高人民法院は 2023 年 12 月 12 日に(2021)最 高法知行最終 556、581、738 号の行政判決を下した:原判決を取り消し、被訴決定における補正後の請求項 4、7、及び請求項 4、7 を引用した請求項 8-10 が無効である決定を取り消し、某コンピュータ上海公司、某 貿易南京分公司、某貿易(上海)有限公司が上記請求項に対して提出した無効請求に対して国家知識産権局 が改めて審査決定を下す。

 

裁判意見

 

法院発効判決の意見として、補正後の請求項 4、7、11、12 及び請求項 8-10 のうちの請求項 4、7 を引用した 場合の発明を審査対象とすべきか否かの審査は、専利法及びその施行細則の規定に基づき、専利審査指南の 具体的な教示を考慮して行わなければならない。

 

専利権者が専利権の権利確定のプロセスにおいて請求項を補正することを許可することは、発明の実質的な 保護に寄与し、技術的貢献を有する発明が請求項の不適切な記述によって保護できないことを効果的に回避 することができる。ただし、この時点で専利がすでに授権され、関連する法秩序がすでに安定しており、公 衆の信頼利益の深刻な減損と法秩序の安定性の継続的な変動を回避するためにも、補正を制限する必要があ る。したがって、専利の権利確定プロセスにおける請求項の補正は、発明の実質的な保護を奨励し、専利権 者の当然の利益を保護することを制度目標とし、法秩序の安定性を維持し、公衆の信頼利益の減損を回避 し、行政審査の操作性と効率を保障することを制度コストとする。請求項の補正の制限については、制度上 の目標を達成できることを基本とし、その上で制度上のコストをできる限り抑える。したがって、専利の権 利確定プロセスにおける請求項の補正に対して、過度に寛大にしてはいけなく、そうすると、信頼利益が著 しく損なわれ、又は法秩序が継続的に変動してしまう。また、過度に機械的で厳格にしてもいけなく、そう すると、制度コストの考慮に基づいて補正を厳格に制限すれば、制度の効果が大きく損なわれ、ひいては制 度の目標を達成できなくなり、得よりも損のほうは多くなる。

 

専利の権利確定プロセスにおける請求項の補正の適法に関する法律規範は、主に専利法第 33 条、専利法施行 細則第 69 条第 1 項により構成されるとともに、専利審査指南においても具体的な操作に関して教示した。請 求項の補正を受け入れるべきか否かは、少なくとも以下の面に関与している。

 

第一は、補正の範囲に関する要件である。専利の権利確定プロセスにおける請求項に対する補正は、専利法 第 33 条に規定する「情報範囲」及び専利法施行細則第 69 条第 1 項に規定する「保護範囲」を超えてはなら ない。専利法第 33 条は、「出願人は、その専利出願書類に対して補正を行うことができる。ただし、発明及 び実用新案の出願書類に対する補正は、元の明細書及び請求の範囲に記載した範囲を超えてはならない。意 匠の出願書類に対する補正は、元の画像又は写真で示された範囲を超えてはならない」と規定している。し たがって、専利授権プロセスにおける請求項に対する補正は、元の明細書及び請求の範囲において開示され た発明の情報範囲を超えてはならない。専利の権利確定プロセスにおいても請求の範囲に対する補正もこれ を限度とする。専利法施行細則第 69 条第 1 項は、「無効審判請求の審査過程において、発明又は実用新案の 専利権者は、請求の範囲を補正することができるが、元の専利の保護範囲を拡大してはならない」と規定し ている。したがって、専利の権利確定プロセスにおいて請求の範囲に対する補正は、元の専利の保護範囲を 超えてはならない。専利の権利確定プロセスにおける請求の範囲に対する補正の法定限度は「情報範囲」と 「保護範囲」の二つの面から定められ、公開の代償として発明を保護するという専利法の基本的な制度論理 をサポートすることに寄与するだけでなく、確実な技術貢献者が専利の授権を獲得することと授権専利が社 会から信頼されることに寄与できる。

 

第二は、補正方法に関する要求である。前述の「情報範囲」と「保護範囲」は、専利の権利確定プロセスに おける請求項に対する補正の法定最大限度にすぎず、「情報範囲」及び「保護範囲」を超えていない限り、補 正を受け入れるべきであるのではなく、補正を受け入れるかどうかは、法秩序の安定性、公衆の信頼利益の 減損、行政審査の操作可能性及び効率も考慮する必要がある。このため、国家知識産権局は専利審査指南を 通じて請求項の補正方法をはっきりさせ、適切に制限することができる。専利の権利確定プロセスにおい て、現行の専利審査指南が許容する請求の範囲の補正は、一般的に、請求項の削除、技術案の削除、請求項 に対する更なる限定、明らかな誤りの訂正に限られる。そのうち、請求項に対するさらなる限定は、請求項 の削除、技術案の削除、明らかな誤りの訂正に対して、専利権者にとって比較的広々で柔軟な補正可能性が ある。専利審査指南では、さらに限定する補正が「請求項に一つまたは複数の技術的特徴を追加して保護範 囲を縮減する」と定義されているので、請求項に対する補正が「更なる限定」に該当するか否かを判断する とき、国家知識産権局は以下の要件を審査する。(1)補正後の請求項が補正前の請求項の技術的特徴の全部 を包含しているか否か。(2)補正後の請求項に、補正前の請求項に対して追加の技術的特徴があるか否か。 (3)追加した技術的特徴のいずれも原請求項に記載したものであるか否か。補正後の請求項が原請求項のい ずれも完全に包含していない場合、または補正前の請求項に対して追加した技術的特徴が他の原請求項に記 載したものではない場合、この補正は、「更なる限定」ではなく、請求項の「再作成」または「再構築」に該 当するかもしれない。

 

第三は、補正の目的に関する要求である。専利の権利確定プロセスは、請求項が授権された後に他人により 無効審判が提起され、無効請求理由に基づいて授権の妥当性を検証するプロセスであり、授権妥当性に関し て全面的に再審査するプロセスでもなく、請求項の作成の最適化プロセスでもない。したがって、専利の権 利確定プロセスにおける請求項に対する補正は、一般的に無効理由(無効請求人により提出した無効理由、 または追加の証拠や国家知識産権局により追加した無効請求人が言及していない無効理由または証拠を含 む)に応答することを限度とすべきである。無効理由で示された欠陥を克服するという名目で、実際に請求 項の記載を最適化する補正、すなわち非応答式の補正は、専利の権利確定プロセスの制度上の位置づけに合 致しないため、却下することができる。逆に、非応答式の補正が認められれば、専利の権利確定プロセス は、専利授権後に別途で請求項の記載を最適化する機会を得るための手段として変わってしまうだろう。こ のようになれば、請求項の作成の当初、専利授権から作成の質を確保することに不利であり、無効審判請求 プロセスの真の役割の発揮にも不利であり、また、専利授権後に利害関係者を含む社会の公共利益に不均衡 が生じる。したがって、非応答式の補正は、「情報範囲」と「保護範囲」を超えていなくかつ専利審査指南に 許与される補正であっても、却下することができる。例えば、請求項の補正に対して、もしその補正に対応 する無効請求および理由が存在しない場合、その補正の範囲や補正の方法を審査する必要がなくなり、その 行為自体は認められない。また、同行政審査プロセスにおいて、一請求項に対する無効理由に対し、当該請 求項に対する補正によりすでに応答し、かつ補正後の請求項が受け入れられた場合、当該原請求項に対する 別途の補正及び相応に得られたより多くの新たな請求項は、一般的には応答対象がもう存在しないため、却 下することができる。

 

専利の権利確定プロセスにおいて、未補正の請求項は当然の審査対象であり、請求項の補正に対する法定ま たはその他の制限の評価対象とはならないため、審査対象を確認するとき、該当請求項が原請求項であるか 補正により形成された新しい請求項であるかを先にはっきりさせなければならない。請求項の補正の有無に ついては、補正前後の請求項の保護範囲に実質的な変化があるかどうかに準じて、実質審査をすべきであ る。一般的に、単なる請求項番号の変更、従属請求項と独立請求項との形式上の簡単変換、並列した技術案 を含む請求項に対する簡単な分割などの、保護範囲に実質的に影響を与えない記載調整は、請求項の実質的 な補正にならない。

 

本件において、補正後の請求項 4、7 はいずれも本専利の原請求項であり、補正を経て形成された新しい請求 項ではなく、当然の審査対象であり、補正に起因した却下すべきものに該当しない。被訴決定は補正後の請 求項 4、7 を却下し、さらに審査対象から除外し、事実上の根拠を欠いている。さらに、補正後の請求項 4、 7 を受け入れるべきではないという理由で、補正後の請求項 8-10 の請求項 4、7 を引用する技術案も受け入 れるべきではないと認定した被訴決定は、根拠を欠いている。被訴決定の補正後の請求項 4 を却下した理由 は、「原請求項 1 は、更なる限定の補正を経た後、すでに技術的特徴が増加し、保護範囲が縮減された新たな 請求項 1 となり、この場合原請求項 1 はもはや存在しないため、新たな請求項 4 の補正は受け入れられな い」とのことであり、補正後の請求項 11、12 は同理由で却下された。つまり、被訴決定における請求項 11 を認めない理由は、原請求項 15 は更なる限定の補正を経た後、補正後の請求項 8 になり、この場合原独立請 求項 15 はもはや存在しなくなり、それを更に限定して補正後の請求項 11 にする基礎は存在しなくなり、補 正後の請求項 12 は、請求項 11 の従属請求項であるため受け入れることができないとのことであった。前述 した専利の権利確定プロセスにおける請求項の補正は、無効理由に応答することを限度とすべきであるとい う審査理念によれば、補正後の請求項 11、12 に対する被訴決定の処理は妥当である。

 

ソース:最高人民法院知識産権法廷 

 

https://ipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-3036.html