「2021年度専利復審・無効審判十大事件」 技術と法律の深い融合が際立つ

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[ 2022-09-19 ]

 

20227月末、中国国家知識産権局復審・無効審理部の公式サイトから、「2021年度専利復審・無効審判十大事件」の審査内容が公示された。8月の初めには、復審・無効審理部が関連した解説イベントを開催した。これら十大事件のうち(1に示す)、1件の集積回路配置図設計の専有権取消手続き事件を除き、残りの9件はすべて専利権無効審判請求事件である。これらの審判事件は、技術と法律の深い融合を明らかに反映しており、専利権無効審判という行政手続に技術的、法的な敷居がどんどん高くなっていることを十分に示している。

 

以下、一部の審判事例を選択して紹介し、示唆点を説明する。

 


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                              図1

 

 

一 優先権書類に対する立証

 

「ライブジョイント」実用新案専利権の無効審判請求事件は、係争専利の名称が「給排水用ライブジョイント」(専利番号ZL201920390483.9)である。係争専利は、ガラス製水槽製品の底部に配置され、水槽内の汚水を排出するためのライブジョイント(図2に示す)に関するものであり、このライブジョイントは日常生活で広く使用されている。

 

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図2「ライブジョイント」事例における係争製品の断面図

 

無効審判請求人は、係争専利が新規性を有しないことを無効理由の一つとして主張し、それに対応して提出した証拠1は、国内優先権を主張した中国実用新案専利であり、その優先日は係争専利の出願日より前であるが、出願日は係争専利の出願日より後である。したがって、証拠1の優先権が成立しない場合、係争専利の新規性を評価するための引用文献とすることができない。

無論、優先権が成立するか否かを判断するには、後の出願における各々の請求項に記載の技術案が、先の出願の書類に明確に記載されているかどうかを判断する必要があり、この過程は、明らかに技術内容に対する分析・比較に属する。 しかし、本件では、証拠1の優先権を主張する先の出願は取り下げられたものとみなされ、開示されたものが得られない。 したがって、立証責任の問題がある。すなわち、請求人と専利権者の中でどちらが証拠1の優先権について立証責任を負うか。 明らかに、これは法的問題である。

審査内容において、肯定と否定の両方から分析し、専利権者に立証責任を負わせるべきと考えられている。 また、優先権書類の入手方法から分析したが、請求人と専利権者の双方は取調申請 」の方式によって優先権書類を取得できる。 最終的に、合議組は専利権者の請求に応じて、証拠1の優先権を主張する先の出願書類を取り調べ、当事者双方による反対尋問を経て、証拠1の優先権が成立するか否かについて具体的な認定を行った。

また、この事件の審理において、電子証拠の真実性の確認、使用公開の証拠チェーンに対する認定及び実用性の判断などの多くの法的問題も及んだ。審理の結果、国家知識産権局は無効審判請求審決第47498号を下し、専利権を有効に維持した。

 

 新規性喪失の例外の猶予期間

 

「左心耳閉鎖装置」発明専利権無効審判請求事件は、係争専利の名称が「左心耳閉鎖装置」(専利番号ZL201310567987.0)である。係争専利は、心臓手術で最も需要が多い血栓塞栓症予防のための植込み型デバイスである左心耳閉鎖装置(図3に示す)に関する。

 


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3「左心耳閉鎖装置」事例における係争製品の模式図

 

本事件において、無効審判請求人は、係争専利が新規性を有しないことを無効理由の一つとして主張し、そして関連する先行技術証拠を提出した。専利権者は、請求人の提出した主な証拠が、出願日前6か月以内にある「他者が出願人の同意を得ずにその内容を漏洩した」状況に属するため、係争専利は「新規性喪失の猶予期間」を享有すべきであり、請求人の提出した証拠が該新規性を損なうことができないと主張した。

 

本事件の係争焦点は、証拠1により係争専利が新規性喪失の例外の猶予期間を享有できるかどうかである。証拠1は外国語定期刊行物での論文であり、その公開日が係争専利の出願日前6か月以内である。技術的角度から、証拠1の開示した技術内容が係争専利の新規性に根本的な影響を与えるため、本事件の焦点は係争専利が「新規性喪失の猶予期間」の法律規定を満たすかどうかになる。

 

本事件の審理を経て、第一に、証拠1の一部の執筆者は、専利権者と協力関係又は雇用関係を有し、当該専利出願の内容を知る合理的な経路が存在するため、「他者が出願人の同意を得ずに、その内容を漏洩した」状況において限定された「他者」に属することを明らかにした。第二に、証拠1は申請資料の一つとして、専利権者の押印確認後に広東省科学技術プロジェクト及び中華医学科学技術賞(20207月に公示)の申請に使用されでいることから、専利権者は20207月の時点で証拠1を知ったと推定できることを明らかにした。専利審査指南」によれば、「出願人が出願日以降に知った場合は、当該事情を知った後の2ヶ月以内に新規性を喪失しない猶予期間を要求する声明を提出し、証明資料を添付しなければならない」とされており、専利権者は、20207月以降の2ヶ月以内に声明を行うとともに証明資料を提出しなけれがならなかった。 しかし、実際専利権者は「新規性喪失の猶予期間を要求する」声明を提出したのは、無効審判請求の受理通知を受けてから2か月以内であり、明らかに期限を超えたいるため、当該猶予期間を享有してはならない。

 

審理の結果、国家知識産権局は無効審判請求審決第52508号を下し、専利権が無効と宣告された。

 

三 中間製品の意匠

 

「計器ケース」意匠専利権無効事件において、係争専利の名称は「計器ケース」(専利番号ZL201030122941.5)である。係争専利の対象となる計器ケースは、主に多くの機能を兼ね備えたインテリジェントペーパレスレコーダ(図4に示す)に適用され、それは電力、石油化学、冶金、製薬、航空などの分野で大きな市場を有している。




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4 「計器ケース」審判事件における係争製品の正面図

 

本事件において、無効審判請求人は、係争専利に提出された写真は完成品ではなく、中間生産物であり、同時に、中間生産物は単独販売または単独使用ができないため、専利法第2条第4項の要件を満たさないと主張した。ここから、請求人が意匠の保護客体という法的問題を提出したことがわかる

 

合議組は、係争「計器ケース」は中間製品であり、中間製品は、ある企業から別の企業へ販売されさらに組み立てに使用されており、「単独販売または単独使用」を構成すると認定した。意匠出願の対象となる製品が単独で加工可能な工業製品であれば、その製品は単独で販売・使用することが可能になる。したがって、係争計器ケースは意匠の保護客体に属する

 

しかし、係争意匠を請求人の提出した引用意匠と比較すると、係争意匠の背面の設計は、いずれも計器配線やUSBコネクタなどのニーズに合わせた機能的な設計が主メインであり、全体的な視覚効果には大した影響を与えるものではない。係争意匠におけるカードスロットの設計と矩形穴の設計などについては、いずれも本体側面に配置されており、カードスロットと矩形穴が機能的な設計であり、棒状の浅い溝設計との違いが微細であり、それは計器全体の造形に対して局所的な微細変化に属し、ウィンドウの内部構造の相違点については、内蔵構造設計であり、使用時には計器ケースの前面にディスプレイを設置する必要があり、使用時には見えない部分に属するため、全体的な視覚効果には大した影響を与えるものではない。

 

審理の結果、国家知識産権局は第44432号無効審判請求審決を下して意匠権の無効を宣告した。

 

四 無効審判請求の取り下げ

 

「画像収集によりネットワーク接続を取得するデータ伝送方法及びそのシステム」発明専利権無効審判請求事件において、係争専利の名称は「画像収集によりネットワーク接続を取得するデータ伝送方法及びそのシステム」(専利番号ZL201010523284.4)である。係争専利5に示す)は、科技会社2社による専利侵害の民事訴訟に関わり、訴訟金額が2000万元である。双方の当事者はいずれも自分の主張を裏付ける大量の証拠と理由を提出し、複雑な事件となった。

 


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5 「画像収集によりネットワーク接続を取得するデータ伝送方法及びそのシステム」審判事件における係争専利のシステム模式図

 

本事件において、無効審判請求人は、係争専利の請求項1が、証拠1と証拠2の組合せに対し進歩性がないと主張した。そこで、双方が論争する重要な技術的特徴は、データ伝送に関連付けられた画像に検証コードが含まれ、検証コードが画像の鮮明さを判断する機能と検証機能を併せ持つかである。

 

文字のとおり、通常の検証コードの機能であれば、検証機能を持つはずであるしかし、「検証コード」について、係争専利の明細書においては、「データ入力装置2は、画像収集モジュール21が取得した画像正しい検証コードが含まれるか否かを分析し取得した検証コードが不正確である場合、自動的にフォーカスを合わせるようにカメラを制御する。画像表示装置11に表示されたネットワークコードの周囲には、少なくとも3組の検証コードを配置することができる。少なくとも3組の検証コードが正しい場合、データ入力装置2は、該画像に含まれるネットワーク識別情報が正しいと認識する。」のみが記載されている。このように、係争専利における「検証コード」は、画像が鮮明になるように位置合わせが正しいか否かを判断するものである。係争専利には、他の検証コードの検証機能を実現する判断基準が記載されていない。したがって、専利権者の係争専利の検証コードが検証機能も持っているとの主張は、事実的根拠がない

 

本件の口頭審理が終了した後、請求人が、無効審判請求の取り下げ請求をしたが、合議組は、直接審理手続きを終了せず、数回の共同審議と議論を経て、現在の事実と証拠に基づいて係争専利が専利法の関連規定を満たしていないことを証明した。その結果、国家知識産権局は第33159号無効審判請求審決を下して専利権の無効を宣告した。

 

専利権者は、この決定に不服があって行政訴訟を提起した。北京知識産権法院の第1審最高人民法院知識産権法廷の終審を経ていずれも33159号審決は事実認定が明確であり、手続きが合法であると判断した

 

 主な示唆点

 

上記4つの事件に関する紹介と説明から、無効審判という行政手続における事件の複雑さと総合度がますます高まっており、請求人であれ権利者であれ、無効審判手続きにおいて所期の目的を達成するためにhあ、技術と法律の両面から十分な準備をする必要があることが示唆された。主な示唆点は以下の通りである。

 

(一)技術は基本、法律は鍵

 

上記「優先権書類に対する立証」の事件において、優先権が成立するか否かを確認するためには、技術的な面では、後の出願と先の出願の技術内容を比較する必要がある。しかし、先の出願書類が公開的に入手可能な状態ではないため、取調が必要となる場合、誰が証拠を提示するかによる立証責任の分配問題があり、これは明らかに法的問題となる。

 

上記「新規性喪失の例外の猶予期間」の事件において、係争専利が証拠1の外国語定期刊行物での論文によって開示されているかどうかは、両者の技術内容を比較分析する必要がある。もし確かに開示されていれば、「新規性喪失の猶予期間」の規定に適合しているかどうかを法的に証明する必要がある。

 

ここから、無効手続きにおいて、技術内容に加え、民事訴訟法と専利法の適用も不可欠となっていることが分かる。これは、無効手続きにおける当事者双方の技術素養法的素養に対する要求が高まり、事件を踏まえた総合的な対策を講じる必要があり、決して一方を失って全体局面を失ってはならない。

 

(二)事実に変化があり、法理は核心である

 

上記「中間製品的意匠」の事件において、意匠の対応する製品形態について、専利法では意匠の定義において具体的な限定を加えていない。

 

ただし、製品が「単独販売または単独使用」されうるという法解釈のもと、現在の産業社会がますます専門化され、細分化される現状に対し、数多くの完成品の中間製品が、別々の企業で生産され、完成品を生産する企業に供給されている。したがって、「単独販売または単独使用」について、最終製品に限定される制限的な解釈を下はならず、意匠出願する製品は単独で存在可能であれば、一つの製品として単独販売可能であり、独立的な使用価値を有すると認定すべきである。

 

このように、現状が目まぐるしく変化する中で、既存の法律から関連規定を探して適用するだけでは、法的根拠がない場合が多い。そのため、法的解釈による判断が必要となり、無効手続きに関わる参加者の法的素養が高く要求される。

 

(三)無効は手段、目標は根本的

 

上記「無効審判請求の取り下げ」の事件において、請求人は、口頭審理後に無効審判請求の取り下げを請求したが、専利権は私権として、個人間の利害関係が存在するだけではなく、公共の利益にも影響を及ぼすものである。合議組はこれによって専利無効の決定を下した。このように、無効手続きにおいて請求人と権利者の間の法的主張を調整するとともに、公共の利益も考慮すべきであり、これは専利法の立法趣旨に合致することである。

 

したがって、無効手続きの請求人および権利者にとっては、この手続きが「双殺」の法的効果をもたらす可能性があることを知るべきである。双方の専利紛争の解決方法としては、和解、調停、訴訟等の様々な方法が考えられるが、無効手続きはあくまで選択できる方法の一つであり、強制的な方法ではない。よって、商用目的、利益の範囲、コストなどの主要な目的を総合的に考慮し、目標達成のために総合的に検討した上で、最適な解決策を確定すべきである。

 

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