専利権侵害紛争における先使用権抗弁についての審査

Foundin
[ 2022-11-25 ]

「先使用権者は、本来の範囲内で引き続き製造、使用する場合に限り、専利権を侵害するものとはみなされ ず、本来の範囲を超えて製造、使用する場合に、専利権侵害行為に該当する。] 

                                                              専利権侵害紛争における先使用権抗弁についての審査                                                         

                                                                                                                                                  ——(2020)最高法知民終642号 

最近、最高人民法院の知識産権法庭は、控訴人の上海丁香環境科技有限公司(以下、丁香公司)と控訴人の 上海复禹環境科技有限公司(以下、复禹公司)との発明専利侵害紛争事件を審決したが、一審判決を取り消 し、丁香公司の訴訟請求を棄却した。 

 

丁香公司と复禹公司は、いずれも「水処理タンク装置」を生産する会社である。2016年3月11日、丁 香公司は、国家知識産権局に係争専利を出願した。この専利は、出願公告日が2016年5月18日であ り、登録公告日が2017年12月5日である。 

 

2019年2月19日、丁香公司は、复禹公司が被疑侵害製品の生産、販売、販売の申し出をしたと主張し て、法院に提訴した。 复禹公司は、権利非侵害の抗弁、先行技術の抗弁および先使用権抗弁を行い、以下の証拠を提出した。

 

 

复禹 公司の職員である陳氏が署名し、且つ「2015.11.16」と記され鉛筆で描いた水タンク構造図9枚 と、2016年3月4日に同氏から代理商に送信した同製品の写真を添付した電子メールの公証書と、係争 専利出願日までに复禹公司が関連水処理機器を販売していた一連の証拠と、衷晶実業(上海)有限公司(以 下、衷晶公司)が复禹公司からの被疑侵害製品の加工委託を受けたことについての関連証拠および証人証言 である。

 

原審法院は、被疑侵害製品が係争専利の保護範囲に入ったと認め、复禹公司が侵害行為を停止し、臨時保護 期間の使用料10万元を支払うとともに、丁香公司に経済的損失40万元および合理的な費用8万元を賠償 するよう判決した。

 

 复禹公司は一審判決に不服があり、最高人民法院に控訴した。

 

 最高人民法院は次のように判断した。2016年3月4日に复禹公司の職員である陳氏が代理商に、同製品 の写真を含む技術案書を添付したメールを送信したことを公証書により証明された。原審の法廷審理現場に おいて、確かにそのメールが正常に送信されたと検証した。なお、係争専利の出願日は2016年3月11 日である。 また、复禹公司の製品の技術案と、衷晶公司の法人代表の鉛筆手書きの図面と、衷晶公司の契約領収書およ び法人代表と従業員の証人証言と結合して、完全なる証拠チェーンを形成した。よって、复禹公司が201 5年末に同製品の製造準備を開始し、且つ出願日までに既に同製品(サンプル)を製造したことを認定で き、本来の範囲内で製造、使用する権利を有すると認める。

 

 

故に、复禹公司による先使用権抗弁の成立を認め、丁香公司の訴訟請求を棄却すると改判した。 この事件は、専利権侵害紛争における先使用権抗弁についての審査方法を明確にし、専利権者と先使用権者 の利益のバランスを実現した、先使用権抗弁に関する典型的な事例である。 

 

先使用権制度は、もともと先出願原則の不備点を補うために考案されたものである。「本来の範囲」の解釈が 広すぎると、専利出願制度にある程度影響を及ぼし、技術の開示と普及に不利になる。 先使用権の保護は、発明の完成のために人的、物的資源を投入した企業や個人が、先に専利出願をしなかっ たために、その知的成果を実施できなくなるという現実に存在する不公正を解消することができる。

 

 但し、先使用権者が専利権を侵害するものとはみなさないことは、本来の範囲内で引き続き製造、使用する 場合に限り、本来の範囲を超えて製造、使用する場合は、専利権の侵害となる。 

 

ソース:IPRdaily

https://mp.weixin.qq.com/s/5y7bc4WImXgqKmuM5gphnw