2021年度専利復審無効十大事例
専利の復審及び無効審判の審理状況をよりよく示すため、国家知識産権局は毎年社会的に典型的な意味を持つ事件を選定し、年度十大事例として公表する。4月26日、2021年度専利復審無効十大事例が国家知識産権局開放日の行事にて公表された。
01「新規スルホンアミド系化合物とそのエンドセリン受容体拮抗薬としての応用」発明専利の無効事例
「事例の概要」
関連専利の名称は「新規スルホンアミド系化合物とそのエンドセリン受容体拮抗薬としての応用」(専利番号:ZL01820481.3)であり、専利権者は埃科莱茵薬品有限公司、無効宣告請求人は南京正大天晴製薬有限公司である。
本件に係る医薬品のマシテンタンは,肺動脈性肺高血圧症の治療に初承認された経口投与製剤である。本件は,ジェネリック医薬品の出願人がジェネリック医薬品の出願を提出した後,先発医薬品に対しての専利挑戦である。
審理を経て、国家知識産権局は第48183号無効宣告請求審理決定を下し、専利権者が提出した修正文書に基づいて専利権の有効を維持した。
「典型意義」
本件は、以下のいくつかの点で、化学医薬品分野における発明専利審査に対して示範的な役割を有する。一つ目は,本件は優先権制度の分析の目的から,先にマルクシュ化合物を出願し,後にその範囲内の具体的な化合物を出願した場合,後の出願が先に出願した優先権を享受できるかどうかについての認定ルールを明らかにした。二つ目は,本件は化合物の確認、調製、用途効果の三つの方面から表で記載された化合物の十分な開示の判断ルールを明らかにした。三つ目は、本件は相違する特徴の導入が明確であるのかどうかについて深く分析を展開し、異なる解決方法を提供することで専利保護を獲得できることも肯定し、機械的に「生体電子アイソステア理論」を用いて専利技術方案を逆推する「後知恵」を回避した。
02「置換多環式カルバモイルピリドン誘導体のプロドラッグ」発明専利の無効事例
「事例の概要」
関連専利の名称は「置換多環式カルバモイルピリドン誘導体のプロドラッグ」(専利番号:ZL201180056716.8)であり、専利権者は塩野義製薬株式会社、無効宣告請求人は劉奕彤である。
インフルエンザは、一般的で深刻な結果をもたらす急性呼吸器感染症である。マバロキサビルは、現在承認された最初で唯一の単剤経口投与式抗インフルエンザ薬である。それは創新的なキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬であり、既存の抗ウイルス療法と異なり、その作用機序はウイルス細胞内のエンドヌクレアーゼをブロックすることによって、ウイルスの自己複製能力を失うことである。
審理を経て、国家知識産権局は第47328号無効宣告請求審理決定を下し、当該専利権の有効を維持した。
「典型意義」
本件は、明細書に開示された全体内容、特に効果実施例の分布に基づいて、プロドラッグと母体化合物及びそれぞれの効果実験との一連の関係を明らかにした上で,明細書から得られる技術的効果を正確に評価し,マルクシュの請求項が明細書の支持を得られるか否かを認定すべきことに対して深く分析した。本件は、また、「構造は類似するが用途が異なる化合物」について、創造性の評価において、先行技術が提供しているメカニズム研究成果を全面的に考察すべきであり、もし関連専利の作用機序と内在的な関連性がなければ、その中から化合物の構造改善による異なる用途を実現する技術的示唆を得ることができないことを述べた。
03「撮像によるネットワーク接続データの伝送方式及びそのシステム」発明専利の無効事例
「事例の概要」
関連専利の名称は「撮像によるネットワーク接続データの伝送方式及びそのシステム」(専利番号:ZL2010523284.4)であり、専利権者は上海科斗電子科技有限公司、無効宣告請求人は掌閲科技股份有限公司である。
掌閲公司のIPOステージで、科斗公司は数回にわたって掌閲公司が自社の専利権を侵害したという理由で民事訴訟を提起し、掌閲公司は直ちに関連専利について無効審判を請求した。科斗公司は、複数の会社が自社の専利権を侵害したとして訴訟を起こし、前後して多数の会社と専利許可、侵害補償などの契約を締結した。
無効宣告の手続き中で、双方とも大量の証拠を提出し、事件の複雑度が高くし、口頭審理の後、掌閲公司は無効宣告請求を取り下げる声明を出した。本件審理の重点は、請求人が請求を取り下げた場合、審理手続が終了するか否か、即ち専利法施行細則第七十二条第二項の規定の理解と適用にある。
審理を経て、国家知識産権局は第33195号無効宣告請求審理決定を下し、専利権の無効を宣告した。
「典型意義」
専利権の有効性に関する紛争は、当事者双方の間の民事紛争ではなく、社会的·大衆的利益がかかっている。本件においては、請求人は、その無効宣告請求を取り下げるよう旨の声明を提出したが、それが口頭審理の後であり、既に行われている審査により、事実及び証拠に基づいて当該専利権の付与が専利法の規定に適合しないことを表明することができるので、審理手続を終了してはいけない。
04「左心耳閉鎖デバイス」発明専利の無効事例
「事例の概要」
関連発明専利の名称は「左心耳閉鎖デバイス」(専利番号: ZL201310567987.0)であり、特許権者は先健科技(深セン)有限公司、無効宣告請求人は蔡景莉である。
本件専利は左心耳閉鎖デバイスに関するものであり、それは心臓手術における需要量が最も大きいインプラントデバイスである。請求人は特許権者の先健科技の複数専利権に対して無効宣告請求を提出した。本件は左心耳閉鎖デバイスシリーズの専利無効宣告事例の一つである。
本件の審理中に、請求人は関連専利の新規性と創造性の欠如を主張し、関連先行技術証拠を提出した。専利権者の場合は、請求人が提出した主な証拠が出願日以前6ヶ月以内に「他人が出願人の同意を得ずにその内容を漏らした」場合に該当すると主張し、それに従って、関連専利は「新規性猶予期間」を有するべきであり、請求人が提出した証拠はその新規性及び創造性を損なうことはできないと主張した。
審理を経て、国家知識産権局は第52508号無効宣告請求審理決定を下し、専利権の無効を宣告した。
「典型意義」
本件は、「新規性猶予期間」に関する「専利審査指南」の規定及び要求から、「他人が出願人の同意を得ずにその内容を漏らした」場合、先行技術の免除を受けることができるかどうかについての認定の考え方を十分に論述し、他人の同意を得ずに漏らした発明創造内容の場合は、専利権者が状況を知ってから2か月以内に声明またはその証明書類を提出しなければ、新規性猶予期間を享受することができないことを明確にした。本件は創新主体が「新規性猶予期間」を享受する場合、適時に必要な声明義務を履行することを提示した。
05「軸流風車」発明専利の無効事例
「事例の概要」
関連専利の名称は「軸流風車」(専利番号:ZL200710026747.4)であり、専利権者は広東美的制泠設備有限公司、無効宣告請求人は珠海格力電器股份有限公司である。
美的、格力、奥克斯は国内エアコン業界のビッグ3であり、それらの間の専利紛争はずっと絶えない。2017年6月に、格力の権利侵害の告発を反撃するために、美的は複数の法院に多数件の権利侵害訴訟を提起し、格力、奥克斯が関連専利権を侵害したと告訴して、請求した賠償金額は5000万元に近い。格力、奥克斯は同月から複数の無効宣告請求を提出し、関連専利に挑戦したが、本件は格力が提出した2回目の無効宣告請求である。
審理を経て、国家知識産権局は第50181号無効宣告請求審理決定を下し、専利権の無効を宣告した。
「典型意義」
本件は一方的に委託された鑑定報告の証拠効力の認定規則と鑑定機構、鑑定手続き、鑑定方法及び鑑定意見などを総合的に検討してその証拠の効力を確定することに対して解釈した。本件ではまた、パラメータまたは公式限定の製品の請求項について、公開された製品測定データで技術比較を行う際、当業者の認識と組み合わせて、業界の慣例と証明の難易度等のいくつかの方面から公開製品の技術状況を把握し、このような典型的な論争の審理に参考例を提供した。
06「イメージセンサーCS3825C」集積回路レイアウト設計専有権取り消し事例
「事例の概要」
関連設計の名称は「イメージセンサーCS3825C」(登録番号:BS.175539928)であり、専有権者は珠海市矽旺半導体有限公司、専有権取り消しを提出したのは深圳市芯智鋭光電科技有限公司である。
集積回路技術の創新を奨励し、集積回路技術の発展を促進するため、中国は2001年に「集積回路レイアウト設計保護条例」及びその実施細則を公布し、特別法を採択して集積回路レイアウト設計専有権を保護した。ここ2年、集積回路技術の発展に伴い、中国の集積回路レイアウト設計専有権の登録数は急速に増加し、専有権の取り消し手続き事例も大幅に増加する傾向を呈し、関連法律条項に対する理解と具体的な適用はレイアウト設計事例の審理実践における難点である。
審理を経て、国家知識産権局は第6号集積回路設計取り消し手続きの審理決定を下し、この専有権の有効を維持した。
「典型意義」
本件では、現行法の枠組みにおいて、登録申請段階にレイアウト設計の独創的な部分はレイアウト設計の専有権を取得するための必要な条件ではないことを明らかにして、レイアウト設計の専有権の確認又は権利侵害の手続において、専有権者が声明・主張する独創的な部分は受け入れるべきであるが、各手続きにおける専有権者の主張は、禁反言の原則によって制限され、反復的に変化してはいけない。ちなみに、本件は専有権保護対象と登録申請期限の判断規則に対して解釈し、レイアウト設計事例の審理に参考例を提供した。
07「メーターハウジング」意匠専利の無効事例
「事例の概要」
関連専利の名称は「メーターハウジング」(専利番号:ZL201030122941.5)であり、専利権者は福建順昌虹潤精密儀器有限公司、無効宣告請求人は廈門希科自動化科技有限公司である。
本件専利に関連されるメーターハウジングは主に多くの機能を一体化したスマートペーパーレス記録計に適用され、それは電力、石油化学、冶金、製薬、航空などの分野で巨大な市場を持ち、いわば「小型計器、大型産業」である。本件の専利権者と請求人はすべて計器分野の有名な企業であり、専利侵害紛争の当事者として、廈門希科は2019年11月に関連専利に対して無効宣告請求を提出した。
審理を経て、国家知識産権局は第44432号無効宣告請求審理決定を下し、専利権の無効を宣告した。
「典型意義」
本件は,意匠の比較判断において、意匠判断主体である「一般消費者」が持つべき知識レベルと認知能力、すなわち専利出願日以前に同種または類似製品の意匠状況を常識的に理解し、かつ現在の設計状況をもとに、「全体観察、総合判断」の方式で、各設計の特徴が全体の視覚効果に与える影響の重みを検討することができることを示した。本件ではまた、関連する意匠製品が中間製品として単独で販売され、かつ独立した使用価値を有する場合、意匠保護の客体となることを明確にした。
08「防爆装置」実用新案専利の無効事例
「事例の概要」
この一連の事例は"防爆装置"と呼ばれる実用新案専利権(特許番号:ZL201521112402.7)に関するもので、専利権者は寧徳時代新能源科技股份有限公司、無効宣告請求者は江蘇塔菲尓新能源科技股份有限公司と東莞塔菲尓新能源科技股份有限公司である。
新エネルギー自動車の動力バッテリー業界はここ数年急速に発展し、本件の専利権者と請求人はすべて国内動力バッテリーの搭載量が上位10位内に入る企業である。2020年3月、寧徳時代は、二つの塔菲尓公司が自社の「防爆装置」の実用新案専利権を侵害したとして訴え、2人の被告に経済的損害賠償金1億2000万元を請求した。本件は国内初の新エネルギー自動車バッテリー専利侵害事例で、国内リチウムバッテリー専利権維持の序幕を開いた。二つの塔菲尓公司は、関連専利に対して前後3回にわたって国家知識産権局に専利無効宣告請求を提出した。
二つの案件の併合審理を経て、国家知識産権局は第50838号無効宣告請求審理決定を下し、専利権者が提出した修正文書に基づいて専利権をの有効を維持した。
「典型意義」
本件は技術示唆が存在するかどうかを判断する際に、相違する特徴の間の関係を注目すべきことと、関連専利の実際に解決すべき技術問題と達成できる技術効果を正確に確認した上で、先行技術に相応する技術示唆があったかどうかを客観的に判断することを解釈した。
09「潜在性結核症の治療用キノリン誘導体」の発明専利の無効事例
「事例の概要」
この一連の事例は二つの専利権に関連し、名称は「潜在性結核症の治療用キノリン誘導体」(専利番号:ZL201210507318.X)、「薬剤耐性マイコバクテリア病の治療における置換キノリン誘導体の使用」(専利番号:ZL200580017016.2)であり、専利権者は詹森薬業有限公司、無効宣告請求人は王立群である。
この2つの専利には、世界初の抗結核薬「ベダキノリン」に関するものである。ベダキノリンは結核菌ATP合成酵素を抑制することにより殺菌作用を発揮し、その創新的な作用機序は治療の効果性と安全性に優位性を与えた。
審理を経て、国家知識産権局は第47812号及び第48150号の無効宣告請求審理決定を下し、専利権者が提出した修正文書に基づいて専利権の有効を維持した。
「典型意義」
この一連の事例は医薬用途の発明の創造性判断基準に対して示範的な作用がある。これは、明細書の実験データの争議技術的効果に対する証明力を分析・認定した上で、発明の技術的貢献を客観的に評価すべきであることを強調するとともに、医薬用途の発明が明らかであるか否かを判断する際に、先行技術に基づいて、当業者にある物質をある病気の治療に利用しようとする動機を発生させることができるかどうかだけでなく、その試みの技術方案に合理的な成功の見込みがあるかどうかを十分に分析する必要があることを述べた。
10「継ぎ手」実用新案専利の無効事例
「事例の概要」
関連専利の名称は「給排水のための継ぎ手」(専利番号:ZL201920390483.9)であり、専利権者は浙江省天雁控股有限公司、無効宣告請求人は孟祥麟である。
関連専利は排水システム技術分野に属し、先行技術における水槽用排水継手の密封が厳しくなく、水漏れしやすい問題に対して、構造が簡単で、密封性がよく、設置が便利な排水のための継手を提供し、この製品は生活の中で広く応用されている。
審理を経て、国家知識産権局は第47498号無効宣告請求審理決定を下し、専利権の有効を維持した。
「典型意義」
本件は、「証拠を検証する必要がある自国の優先権について、優先権文書が非公開である場合、当事者は通常、当該優先権文書を入手する経路がないが、この場合、当事者は申し出をして、合議組に職権により証拠を収集することまたは専利行政部門から関連文書を閲覧・複製できる証明を出すことを請求することができる」ことを述べた。また、実用性意義での「積極的な効果が得られる」ことに対しての理解、ウィチャットメッセージ、展示会など異なるタイプの証拠の真実性と証明力の認定ルールを解釈した。