関連専利の名称は「軸流風輪」(専利番号:ZL200710026747.4)で、専利権者は「広東美的製冷設備有限公司」で、専利権無効宣告の請求人は「珠海格力電気股份有限公司」である。
関連専利には製品請求項5個が含まれ、主に自己定義パラメーター及び公式にて軸流風輪の構造、羽根の立体曲面の外形と寸法に対して具体的に限定している。審査決定においては、主に使用公開された技術方案により、全部の請求項が新規性または進歩性を有しないと述べている。請求人は事実関係が複雑だと主張し、当事者の双方は多くの法律問題において各論を曲げなかったため、事実認定と法律適用のいずれの面でも審査が難航していた。合議体は争点を巡って関連法律問題について深く研究と探求を行い、無効決定において事件の事実を結合して明確かつ具体的に説明を行った。以下、筆者は上記の問題を巡ってさらなる論述を行う。
使用公開の認定の考え方
使用公開に関する専利権無効宣告請求事件において、審査と認定が難しいことはよく知られており、その難易度は証拠の数が多くて類型が多様であることによる証拠効力の審査問題だけでなく、主張の事実が複雑で、目的が不明確で、チェーンが長すぎることなどによる事実整理、結論判断の問題も含む。相対的に、後者はこのような事件の審理をもっと困難にさせる。
例えば、この事件の請求人が主張する証拠チェーン(証拠18~29)では、専利文献、定期刊行物の論文のような出版物による証拠と、4つの風輪のそれぞれの使用公開の事実を証明する4部の証拠が含まれている。もし4種類の風輪の構造が同じであるという請求人の主張が成り立つならば、そのうちのいずれかの風輪と風輪2の計測データを結合して、関連専利と技術的に対照することができる。要するに、生活事実の完全な還元、十分な証拠提示等の観点から、使用公開の事件において、請求人が主張する証拠チェーンが明瞭に見えることが多いが、実際には様々な証拠チェーンが含まれている可能性があるため、審理の方向性が明確になりにくい場合が多い。
筆者は、このような事件の審理は、まずは使用公開の内在的ロジックで事実を整理し、初歩的に法律的帰属を行うこと、次は事件の状況と結びつけて審査方向を確立することの2つのステップから把握できると考える。
第一歩の事実整理と初歩的な法律的帰属について、使用公開の法律構成要件に基づいて、要件の事実理論及び民事司法分野の要件の裁判方法を参考にして、以下の考え方に従って分析することができる。まず、出願日以前に一項の技術について販売、使用、展示などを含む使用行為があったかどうかを判断する。次に、行為の事実が確認された場合には、行為に係る技術に、関連専利との技術対照をサポートするのに十分な実質的な技術内容が含まれているか否かを判断する。その後に、行為に係る実質的な技術的内容が、公衆が知りたければ知ることができる公開状態にあるか否かを判断する。最後に、このような技術内容の公開状態が関連専利の出願日前に発生したが否かを判断する。上記の四つの面からすべて事実であることが検証された場合、関連技術の内容は、使用公開により既存技術を構成していると認められる。逆に、もし上記のいずれかの一つ面から事実と判明できなかった場合、使用公開が成立するという結論を下すことができず、挙証責任を負う者が不利益を被ることになる。
第2段階の審理方向の確定に関して、当事者が主張する使用公開事実について全面的に整理することを前提として、合議体は事件の状況によって異なる審査方向を選択することができる。請求人が主張する一つまたは複数の使用公開事実がすべて成立する場合は、最も内面的な確認度が高い事実を主要事実として選定して、事件の審理と法律の適用を展開する。逆の場合は、すべての事実主張に対して審理分析を行わなければならない。
具体的に、この事件において、合議体の第一歩の整理の考え方は、まず証拠18~21によって証明される四つのエアコン販売事実はすべて出願日以前に発生した、風輪技術を使用した行為に属する;次に、上述の四つの販売行為に関係する風輪はすべて実質的な技術内容を有する;また、上述の販売行為はいずれも風輪が具現した技術案を公開状態にすることになる;最後に、販売領収書の発行日当日から、上述の公開状態が存在することになり、その時間は関連専利出願日以前である。つまり、この事件における4種のエアコンの販売事実はすべて使用公開を構成する。
第2段階では、法律適用に関する主要事実を特定することに重点を置いている。このため、合議体は以下の要素を考慮した。一つ目は、関連専利の権利請求の範囲が構造的特徴及びパラメーター特徴を含むが、請求人は単に風輪2の測定データをパラメーター特徴の対照の基礎とし、もし他の三つの風輪の販売事実を基礎とするならば、対照の基礎が一致しない問題を引き起こしやすい。二つ目は、合議体は風輪2に対する現場検査に基づいて証拠29鑑定データの科学性を判断する必要があるが、残りの風輪を採用して構造比較を行う場合、さらに間接証拠22~24を結合してそれは風輪2と同種の風輪に属することを証明してこそ、証拠チェーンの完全性を保証することができるが、合議体は証拠22~24の立証事実については、まだ内面的な確認ができない。
最後に、合議体は、この事件において証拠18によって証明された風輪2の販売事実を使用公開を認定する主要事実とし、風輪2の実物結合証拠29に関する測量報告書を技術的対照の根拠とし、これを基に後続調査と審理を行わなければならないと認定した。
一方的な鑑定依頼報告書の証拠効力
この事件の対質過程において、専利権者は請求人が一方的に鑑定機関に依頼して作成した鑑定報告の効力を認めなかった。その理由は、専利権無効宣言請求の手続きにおける一方的な鑑定依頼は司法手続きにおける司法鑑定と異なり、証拠29の測量報告の信頼度が高くないということである。
当事者が一方的に鑑定機関に意見提出を依頼するのは、無効宣告手続きと訴訟手続きにおいてよく見られるやり方であるが、依頼者、証拠の効力などの面で司法鑑定と区別があることも業界の共通認識である。最近、業界内の証拠の効力に関する論争は、主に《民事訴訟証拠に関する最高人民法院の若干規定》(2019改正)(以下、2019版の若干規定という)第41条の規定に起因する。多数の意見は、先に施行された《民事証拠規定》第28条の規定に基づき、それは民事訴訟法に規定された鑑定意見に属するということだが、2019版若干規定第41条に基づけば、その法律的性質は鑑定意見ではなく、書証の範疇に属するべきである。この事件で2019年版の若干規定の施行日がちょうど証拠の挙証日と法廷の対質日の間にあり、証拠27、29の性質及びその証拠の効力をどのように認定するかが合議体が応じなければならない難点となっていた。
これに対して合議体は次のように考えた。一つは、「専利審査指針」に明確な規定がない場合、民事訴訟法の関連規定を参照すること。合議体は法律検索、判例照会などを通じて、上述した新旧証拠規定及びその他の民事訴訟関連法律のいずれにおいても明確にその証拠の効力を排除するという規定が存在しないとの大前提を確認した。その故、合議体は、このような証拠の証拠効力を一律に否定することはできないと判断した。
二つは、新旧司法解釈の適用問題につきまして、2019年版の若干規定を適用しても、同案は鑑定意見の認定規則を参照することができる。最高人民法院の2019版の若干規定の過渡措置に関する説明によると、この案は原則的に2019版の若干規定を適用しなければならない。しかし、たとえ当事者が自ら鑑識を依頼しても鑑定機構が作成した鑑定報告書はもはや鑑定意見に属さず、法律及び司法解釈はいずれも鑑定意見を参考に適用することに対して禁止規定を設けていない。合議体はさらに、2019年版の若干規定が施行された後、最高人民法院がこの法律問題に関する典型的な事例において「一般的に、鑑定意見の審査規則と私文書証を準用する対質規則を参照することができる」と明示したことを発見した。
上述の理由に基づき、合議体は、民事訴訟制度における鑑定意見に関する一般審査の考え方を参考に、鑑定意見の中立性、科学性を2つの手掛かりとし、専利権者が十分に理由を述べているか、または鑑定結論に反論するのに十分な反証を提出しているかを考慮して、証拠の効力を総合的に認定することとし、具体的な判断規則を明確にした。この事件に戻り、依頼人は相次いで二つの測量机関に依頼して風輪2の測量を行い、証拠27、証拠29は測量の根拠、方法、結果においてほぼ同じであり、お互いに証明し合うことができ、ある程度中立性の問題を解決した。合議体は鑑定材料の風輪2に対して現場検査を行い、把握した一般技術知識に基づいて、証拠29は科学性、正確性において明らかな欠陥がないと判断した。同時に、専利権者は測定報告書の明らかな欠陥を具体的かつ明確に指摘せず、反証を提出しなかったため、合議体は上記の要素を総合して証拠29の測定報告書を採信すべきだと判断した。
自己定義のパラメータ請求項と使用公開された技術との対照
審査の実践において、複数の自己定義のパラメータと公式により限定された請求項は非常に特殊性がある。技術的対照のみとすれば、出版物により開示された単一の先行技術は、通常、パラメータ特徴のすべてを開示することはできず、完全にカバーできる複数の先行技術は、結合できない問題がある可能性があるため、多くの請求者は、使用公開された先行技術を選択する。しかし、これにより、このような事件において次のような法律問題が顕著になる。すなわち、技術案を使用する行為が出願日前に発生し、技術案の証拠収集日は登録公告後になるが、その間に技術案に変更があったかどうか、証拠によって証明される技術案と先に使用公開された技術案が同一性を備えているかどうか。
上述の法律問題は、通常、先に公開された実物やその部品に変形があったのか、化学薬品の性能及び/または成分に変化があったのかなどをめぐって議論が起きた。このような議論に対しては、証拠認定、証明基準などの観点から把握するほか、合議体が持つ技術的優位性を十分に活用して事件の事実を究明して認定しなければならない。
具体的にこの事件において、専利権者は、風輪2はすでに11年近く使用されており、プラスチック製品として必然的に深刻な変形が発生したはずであり(6部の反証でこの主張を裏付けた)、証拠29は変形後の風輪サイズを測定したものであり、そのデータは先に公開された状態での技術案を反映できず、関連専利の自己定義のパラメーター及び公式と技術的対照を行う基礎になってはならないと主張した。
これに対して、合議体は証拠認定規則を正しく適用し、証明基準を合理的に把握した上で、当業者の技術優位性を十分に見せてくれた。まず、プラスチック製品の「種類によって変形の程度が異なる可能性がある」という当業者の一般的な認識に基づき、風輪2に採用されているプラスチック材質がAS-GF20であることを重点的に明らかにし、双方の当事者が提出した参考資料と関連背景技術を通じて、合議体はこの材質のプラスチック風輪が良好な寸法安定性を有することを確認した。専利権者が提出した反証はプラスチック製品の変形に対する一般的な論述に過ぎず、合議体の風輪2の変形に対する内面的な確認を覆すには力不足である。次に、合議体はまた、風輪製品の設計、製造、使用過程における変形に影響する多くの要素を分析し、当事者の挙証難易度、現場検査の風輪2の状態、関連専利の相応する特徴系の同方向の寸法比などの角度から、系統的な検証及び論述を行い、証拠29に明記された関連パラメーターは技術的対照の根拠とすることができると認めた。
本文章は、「軸流風輪」事件と結びつけて使用公開に関する事件の審理の考え方について総括及び検討を行ったが、関連観点が同類型の事件の審理に参考になり、当事者の挙証・対質の能力の向上に役立つことを期待する。
出所:中国知識財産局