中国国家知識産権局の統計によると、2021年上半期に、中国では33.9万件の特許が登録され、今年6月末までの有効特許件数が332.4万件であり、そのうち、中国国内(香港、マカオ、台湾を除く)の有効特許件数が前年同期比23%増の245.4万件、PCT国際特許出願は前年同期比12.6%増の3.33万件が受理されました。
また、上半期に132.7万件の実用新案と39.3万件の意匠が登録され、2.84万件の特許再審査と、0.43万件の無効宣告案が結審されました。
知的財産権の保護と運用
上半期、全国各省(自治区、直轄市)特許権侵害紛争の行政裁定は1.38万件提出されました。全国特許・商標の質権融資額は、前年同期比25.9%増の1074億元にのぼり、質権項目数は32.4%増の6195件にのぼりました。
そのうち、特許質権融資額は前年同期比32.4%増の862億元にのぼり、質権項目数は、前年同期比31.8%増の5497件にのぼりました。商標質権融資額は、前年同期比5.0%増の212億元にのぼり、質権項目数は、前年同期比37.7%増の698件にのぼりました。
主な特徴
一)知的財産権の審査能力が持続的に向上
上半期の特許、商標、集積回路レイアウト設計の登録量が前記同期比で迅速に増加したことには、中国市場主体の技術的革新、創造及び創業の活発、知的財産分野の改革の高度化、知的財産権審査の品質と効率の向上が反映されています。審査能力の持続的な向上は特許、商標の審査周期の短縮にも反映されています。6月末までに中国の特許の平均審査周期は19.4ヶ月、高価値特許の審査周期が13.4ヶ月にそれぞれ短縮され、商標登録の平均審査周期は4ヶ月以内に安定的に維持されています。
二)中国国内で特許を有する企業の数が安定的に増加
6月末までに、中国国内で有効特許を有する企業は27.0万社まで増加し、昨年より2.4万社増加しました。そのうちハイテク企業が12.6万社、合計107.7万件の有効特許を有し、国内企業の有する有効特許の総量の62.3%を占め、企業の技術的革新能力が持続的に向上していることを表しました。
三)外国出願人の中国における知的財産権の登録件数が持続的に増加
上半期、外国出願人の中国における特許の登録件数は前年同期比30.0%増の5.4万件であり、外国出願人の中国における商標の登録量が前年同期比7.5%増の9.0万件でした。そのうち、米国出願人の中国における特許登録、商標登録が前年同期比でそれぞれ35.0%及び8.9%増加しました。ここから、外国企業が中国のビジネス環境に確信を持ち、中国でビジネス活動の展開及び知的財産権レイアウトの展開を希望していることがわかります。
出典:知识产权课堂
最高人民裁判所は、タイトルを「特許出願が拒絶された後、同日に併願した同一技術的解決策の実用新案の権利保護について」とする事例を発表しました。
判決の要旨は下記の通りです。
「当事者が同じ技術的解決策について特許と実用新案を同日に出願し、特許が新規性の欠如、又は同じ技術分野に属する引用文献に基づいて進歩性を有さないと見なされ権利付与が行われず、且つその法律状態が既に確定されているとき、当事者が既に登録された実用新案を根拠として権利侵害の損害賠償を請求する場合、人民法院はそれを受け付けない」。
中国では、特許は保護期間が長いものの実体審査を必要とし、権利化の過程が複雑であることとは反対に、実用新案は保護期限は短いが実体審査が不要で、迅速な権利化が可能です。企業が権利保護のために特許を早急に必要とする場合、特許と実用新案のどちらを出願するかが問題になります。この問題を解決するために、法的に「特実併願」が可能であると規定されています。つまり、同じ技術的解決策について特許と実用新案の両方を同日に出願すると、実用新案の登録後すぐに権利が発生し、特許登録後は実用新案を自動的に放棄することで、実用新案を利用した早期権利化が可能になります。実務においては、実用新案と特許の両方を出願することが可能である技術的解決策に対して、多くの企業が「特実併願」を選択しています。この方法では特許が権利化されるとさらに10年の保護期間を得ることができ、権利化されない場合は実用新案権を引き続き行使できるので損失がありません。
しかし、今回最高人民裁判所により発表されたこの判例は、このような慣行を大きく揺るがすものです。
当該特許は、出願番号がZL200920242493.4であり、名称を「プランター」(绿化箱)とする実用新案です。権利者は該実用新案に対する侵害で被告人を訴え、第一審裁判所は権利者を支持し、60,000元の賠償を被告に宣告しました。被告人は判決を不服として、二審で最高裁判所に上告しました。最高裁判所による判決の要旨は下記の通りです。
「本案において、孫希賢(権利者)は同日に請求項内容が全く同じである実用新案と特許を国家知識産権局に提出し、国家知識産権局が実体審査を行った結果、当該特許出願の元の出願書類に記載された請求項1、4-7が新規性を備えず、請求項2-3が進歩性を備えないと判定されたため、孫希賢に第一回審査意見通知書を発行した。孫希賢は第一回審査意見通知書を受け取った後、元の請求項1-4を新しい請求項1に統合したが、国家知識産権局は補正した請求項1-4が進歩性を有していないと判定したためこれを拒絶した。換言すれば、国家知識産権局は、当該特許出願の最初の出願書類に記載された請求項2、3が進歩性を備えておらず、請求項1、4、5が新規性を備えていないと判定し、且つ孫希賢が第一回審査意見通知書を受け取った後に元の請求項1-4を新しい請求項に統合したことから分かるように、孫希賢も第一回審査意見における元の請求項1-4が新規性又は進歩性を備えないことに関する判定を認可した。特許と実用新案は進歩性に対する要求に相違点があるが、この相違点は主に従来技術の技術分野及び引用文献の数に反映される。本案において、当該実用新案の技術的解決策について孫希賢により同日に提出された特許出願の請求項2、3が第一回審査意見通知書により進歩性を備えないと判定されたことに対して、引用文献は1件のみ、即ち引用文献2のみを使用し、且つ当該引用文献2は本案の実用新案と技術分野が同じであるとともに、上記特許請求項1が新規性を備えないと判定した際の同一の引用文献でもあるため、本案は特許と実用新案の進歩性に対する要求の違いにより特許権が付与できない技術案のうち、実用新案権が付与される可能性がある状況に属しない。また、国家知識産権局により発行された特許権評価報告書も、当該案件の特許権の効力が不安定であることを示している。実用新案権侵害の訴訟において、権利者が権利保護を主張する実用新案が権利化できない技術的解決策に属する可能性が高い場合、それは専利法が保護する「合法的な権益」に属さず、保護されるべきではない。上記を総合すると、当該実用新案は、専利法が保護する「合法的な権益」に属しない。」
この判決は非常に興味深いものであり、少なくとも以下の2つのポイントがあります。
第1に、「特許と実用新案は進歩性に対する要求に相違点があるが、この相違点は主に従来技術の技術分野及び引用文献の数に反映される」ことが明らかになりました。この判決は、実用新案の進歩性と特許の進歩性の相違点を定量化し、審査実務での運用状況を公開しました。実用新案と特許の進歩性がどう異なるかは運用上では明言が難しく、ふつう引用文献の技術分野と数に基づいて判断するとされています。また簡単な組み合わせが重複する場合を除き、技術分野の違いが大きい、又は引用文献が3つ以上ある場合、一般に実用新案の進歩性を評論するためには使用されないとされています。今回の最高人民裁判所の判決によりこの方法が実際に運用されていることが明確となりました。
第2に、当該実用新案権は「権利行使不可」と判決されました。特実併願の際に特許が拒絶され、拒絶のために使用する引用文献が同じ分野に属し、且つ引用文献が2つ未満である場合、この実用新案は権利を行使できなくなる可能性があります。直接には無効と判決されないものの、裁判所が保護しない実用新案、即ち有名無実といった状況となります。このような状況は、中国の特許実務では多く見られるものではありません。
したがって、この判決は以降の中国特実併願に大きく影響しますので、企業は特実併願を希望する際は、是非以下のことに注意するようにしてください。特許が拒絶され、且つ拒絶のために使用される引用文献が類似する技術分野に属し、引用文献の数が2つ未満である場合、特許と共に実用新案も実質失効します。実務においては、特許が拒絶される際に使用される引用文献の技術分野が大きく異なったり、引用文献が3つ以上を有したりする比率は高くありません。ここから分かるように、特実併願の際に特許が拒絶されると、実用新案も連動して実質的な意味を失う可能性が高いということになります。
出典:知产信息讲堂