証拠保全申立ての考慮要件
——(2020)最高法知民終2号
【裁判の要旨】
証拠保全申立てに対して、人民法院は、証拠保全申立ての根拠となる初歩的証拠と立証すべき事件事実との関連性、証拠保全の必要性と実行可能性等の要件を総合的に考慮して判断すべきである。証拠保全の必要性としては、保全申立ての証拠と事件事実との関連性の存否、保全申立ての証拠が滅失またはその後取得が困難となる可能性があるか否か、申立人が合理的かつ合法的な証拠収集手段を使い果たしたか否か等を要件として考慮することができる。
特許 侵害 証拠保全 必要性
控訴人の江蘇中隧橋波形鋼腹板有限公司(以下、「中隧橋公司」という)と、被控訴人の鄭州恒天大建橋鋼構造有限公司(以下、「恒天公司」という)、河南大建波形鋼腹板有限公司(以下、「大建公司」という)、成都華川高速道路建設グループ有限公司(以下、「華川公司」という)との專利権侵害紛争の案は、専利番号がZL201310308210.2で、名称が「コーナー強化型不等厚型波形鋼板及びその製造方法」である特許(以下、「本特許」という)に関するものである。
控訴人の中隧橋公司は、被控訴人の恒天公司、大建公司、華川公司が、太行山高速道路の邯鄲段プロジェクトにおいて製造、使用、販売、許諾販売した被訴権利侵害製品が本特許の請求項1~6の保護範囲に属し、本專利権を侵害していると主張し、被控訴人らに対し、侵害差止請求とともに、それに基づく損害賠償金と権利保護のための合理的な費用の支払、及び本事件の訴訟費用の負担を求めて、河北省石家荘市中級人法院(以下、「第一審法院」という)に提訴した。
第一審法院は、「中隧橋公司は、被控訴人らがその專利権を侵害していると主張したが、明確で具体的な被訴権利侵害製品がなく、対比による判定ができない。中隧橋公司が、ウェブサイトの情報のみに基づいて、被控訴人らが專利権を侵害しているとの主張については支持しない」と判断した。
第一審法院は、中隧橋公司の訴訟請求を棄却した。
中隧橋公司は、第一審判決を不服として、第一審法院が中隧橋公司の証拠保全申立てに対し、いかなる措置も取らなかったため、原審判決の誤りを招いたと主張して、最高人民法院に上訴した。
最高人民法院は、2020年8月10日に、原判決を取り消し、第一審法院に差し戻した。
【判決の要旨】
第二審の最高人民法院は、「証拠保全は、当事者の挙証能力を補強し、事件事実の調査を進めるための重要な手段である」と判断した。
人民法院は、法律に従って、証拠保全申立てを審査すべきであり、法律規定を満たす申立てに対しては支持すべきであり、適切な保全措置を適時に施すことにより、当事者の証明負担を効果的に軽減すべきである。
本事件の場合、第一に、中隧橋公司が提出した初歩的証拠と、訴えられた権利侵害事実との間に強い関連性がある。
まず、本專利権が保護しようとする、コーナー強化型不等厚型波形鋼板は、恒天公司、大建公司が製造した波形鋼腹板、及び本事件に関わる橋梁に使用された波形鋼腹板と同一類型の製品である。
そして、「河南大建波形鋼腹板有限公司」のウェブサイトの「製品紹介」欄に開示された波形鋼腹板の製品形状、仕様情報により、被訴権利侵害製品が、本特許の特許請求の範囲における「コーナーユニット」、「第1直線セグメント」、「コーナーアーク」、「第2直線セグメント」等と対応する技術的特徴を有することが比較的に明確に反映される。
さらに、恒天公司と大建公司は波形鋼腹板の生産、施工企業であり、華川公司は、太行山高速道路の邯鄲区間工事の受注者である。
第二に、中隧橋公司が法院に保全申立てを行った証拠は、緊急性及び必要性を有する。
まず、中隧橋公司が第一審法院に保全申立てを行った証拠は、「その後取得が困難となる」との緊急性を有する。
中隧橋公司が、原審法院に、本事件に関する工事に使用された被疑権利侵害製品の保全を申し立てた際、関連工事は施工中であった。施工完了の場合、破壊的な解体を行わない限り、外部からは被訴権利侵害製品の厚さ等の技術的特徴の測定ができなくなる。
次に、中隧橋公司は、合理的かつ合法的な挙証手段をすでに使い果たし、恒天公司等の被控訴人らの專利権侵害行為をさらに証明するには客観的な困難が存在する。
被訴権利侵害製品は、市場取引などを通じて容易に入手できる日用品や一般産業原料ではなく、橋梁建設などの大型インフラプロジェクトに専用されるため、通常、入札・募集を通じて生産、流通、使用される。
入札・募集主体、施工業体及び個人以外の他の個体や個人が、正常かつ合法的なルートを通じて当該製品を接触することは難しい。
そして、被訴権利侵害製品は、橋面を支える構造部品の一つで、地上数十メートルの高さに設置されるため、建設現場の設備を使用しないと、正確に測定することが難しい。
さらに、中隧橋公司が保全申立てをした証拠は、その権利保護において必要なものであり、より高い証明力を持つ証拠である。被訴権利侵害技術案が本特許の保護範囲に属するか否か、及び被控訴人らのそれぞれの行為が專利権侵害に該当するか否かを判断するには、必ず被訴権利侵害製品のコーナー厚さなどの関連技術的特徴を明確に調査すべきであり、そうしないと正確な判断を行うことができない。
第三に、中隧橋公司が第一審法院に保全申立てをした証拠は、実行可能性を有する。
本事件の第一審段階において、中隧橋公司が、第一審法院に、当該工事に使用された被訴権利侵害製品に対し、証拠保全措置を申し立てた際、当該工事は施工中であったため、第一審法院は、法律に従って、当該工事に使用された被訴権利侵害製品に対して証拠保全を行って、現場に堆積された原材料に対して測定、サンプリング等を行うことにより、被訴権利侵害製品の技術的特徴を取得できるはずだった。また、上記の証拠保全方式には、技術上の困難がなく、重大公共プロジェクトに属する当該施工の進行に深刻な悪影響を与えることもないので、保全措置の実施可能性を有する。
現在、本事件は、專利権侵害の事実を明らかに調査できる条件を備えている。恒天公司は侵害製品の製造社として、当該企業内部には権利侵害対比に利用できる一定数の侵害製品が残ってあるはずである。
実際、第一審の手続きにおいて、中隧橋公司は、第一審法院に、関連する工事現場に使用された被訴権利侵害製品の証拠保全の申立てだけでなく、恒天公司の内部に向かって被疑侵害製品及びその製造プロセスの証拠保全を行うことを請求した。
当該証拠保全申立ての一部は、証拠保全の条件を完全に満たしていないが、客観的には本事件の核心事実を再調査して明確にするための実行可能な方法と査証ルートを第一審法院に提供している。
同時に、関連工事は河北省の重大交通インフラ保障プロジェクトであり、恒天公司は当該工事の監督方として、調査のために工事に使用された被訴権利侵害製品の関連技術図面を保管すべきなので、この点も客観的に第一審法院が本事件の権利侵害の事実を再調査して明確するために有利な条件を提供している。
そして、本事件は、第一審法院が「保全すべきであったが、保全しなかった」の状況に該当する。
第一審法院は「專利権侵害事実の証拠欠如」を理由として、中隧橋公司の訴訟請求を棄却したが、当該專利権侵害事実の証拠欠如を招いた原因は、まさに第一審法院が適時適切の証拠保全を行わなかったためである。
従って、本事件は、專利権侵害の関連事実を明確に調査できる条件を有しているため、第一審法院は、本事件について再審理を行って、関連侵害の事実をさらに調査した上、権利侵害の可否を正確に判断すべきである。
このように、專利権者に充分な救済機会を与えるだけでなく、両当事者の審級利益も保障することにより、実体上の公平性及び手続き上の公平性の統一を実現する。
「2021年第3四半期における中国專利無効審判統計分析」
2021年第3四半期(7~9月)に国家知的財産局によって発表された1376件の無効請求審査決定[1]を統計、分析することにより、次のように結論付けられる。
• 実用新案件数が最も多く、意匠が2番目に多く、特許が最も少ない。
• 主に医学、運輸、通信、電気学等の技術分野に集中している。
• 無効審判請求人トップ3は郭策、湖南宝家雲建設工程管理有限公司、中国科学院大連化学物理学研究所であり、專利権者トップ3は、浙江衣拿智能科技股份有限公司、湖南原墅家乡墅科技有限公司、三菱電機株式会社である。
• 專利権者は主に広東省と江蘇省からである。
• 審理期間が5~8ヶ月である場合は多い。
• 無効にされた專利権の存続期間が1~3年である場合は多く、存続期間が長いのは少ない。
• 全部無効にされた案は49.1%で、そのうち、意匠が59%、実用新案が49.5%、特許が33.6%を占めている。
• 部分無効にされた案は14.4%で、そのうち、実用新案が22.5%、特許が21.9%を占めている。
• 有効審決にされた案が36.5%で、そのうち、意匠が41%、実用新案が28%、特許が44.4%を占めている。
• 意匠が全部無効にされた理由は、主に新規性の問題と明らかな相違点がないことにあり、実用新案と特許が全部無効にされた理由は、主に進歩性の問題にあり、少数の案は、書き方の形式の問題のみにより、全部無効にされた。
[1]関連データは、国家知識産権局http://reexam.cnipa.gov.cn/によって公開された「無効審判請求審査決定書」及びhttp://epub.sipo.govによって公開された專利記載事項から取得したものである。[2] 43件の專利は、行政訴訟、関連事件等に関し、審理期間が2年以上であるため、チャートには含まれていない。
出典:知识产权界