Foundinニュースレター2020年12月号ー中国におけるミーンズ・プラス・ファンクション・クレームの解釈上の矛盾について

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[ 2021-07-20 ]


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事例研究: 中国におけるミーンズ・プラス・ファンクション・クレームの解釈上の矛盾について


執筆者 韓笑 周昊雨

 

中国の特許法と実務による場合、ミーンズ・プラス・ファンクション・クレームは、中国の特許出願登録と中国の特許訴訟の時点とでは異なって解釈されます。
 
基本的に、「ミーンズ・プラス・ファンクション」クレームは、特許審査中には審査官によって「機能を達成できるあらゆる手段」として解釈されますが(すなわち、特許付与が難しい広範なクレーム)、そのようなクレームは特許訴訟中には裁判官によって、単に「明細書(Specification)に開示された実施形態またはその同等物」(すなわち、効力の発揮を困難にする比較的狭いクレーム)として解釈されます。

これは、CNIPA(中国国家知識産権局)と裁判所とが、審査と施行の各段階で「ミーンズ・プラス・ファンクション」クレームをどのように解釈するかについて見解のすり合わせを行っていないことを明らかにしています。

しかしこの事実は逆に、CNIPAと裁判所のどちらもが「ミーンズ・プラス・ファンクション」クレームに好意的でなく、そのため特許権者に有利ではない方法でそのようなクレームを扱うということをも明らかにしています。

したがって、出願人がミーンズ・プラス・ファンクション・クレーム形式で中国において特許保護を求める場合には、出願登録・訴訟の両プロセスをより有利に進めるために最低でもいくつかの構造的クレームを、予備として追加することを強くお勧めします。

ケーススタディ

 ノキア 対 上海華勤通訊技術有限公司(Shanghai Huaqin Telecom Technology)のケースでは、機能的特徴の決定がその内容に含まれる、コンピュータプログラムに関連するクレームの解釈がキーポイントとなりました。
特許権者であるノキアは上海華勤を特許権侵害で提訴し、その後、上海華勤はノキアの特許に対する無効請求を提出しています。

このケースでは問題の特許のクレーム6および7の解釈が争点となりました。

 請求項6.ユーザから受信した入力信号に基づいて送信されるメッセージを決定するように構成された端末装置において、
・・・・・・を調べるよう構成される。また
メッセージを送信するため、次の特徴を持つ...を選択するよう構成される
前記特性情報は、下記の情報のうちのいずれかであることを特徴とする端末装置。

請求項7.メッセージを入力するためにメッセージエディタに適用されるデータ送信方法を選択するよう構成されており、メッセージエディタで実行されるデータ送信方法の選択に基づいて、選択されたデータ送信方法をサポートするデータ送信アプリケーションにメッセージを送信するよう構成されている。またデータ送信アプリケーションが使用するデータ送信プロトコルに従って、メッセージを電気通信ネットワークに送信するよう構成されていることを特徴とする、請求項6に記載の端末装置。

 

無効審判において、CNIPAの復審査委員会は、端末装置は構造的特徴によって明確に説明できないため、方法的特徴を使用した製品の特徴付けは許容されるため請求項6は明確であり、また明細書の内容および当該分野における一般的な一般知識に基づいて、当業者は請求項6〜10に記載の端末装置の構成および動作モードを理解できる、つまり、この請求項は明細書の開示によって支持されると判示しました。

侵害訴訟において、一審裁判所は請求項7の実施形態は明細書に開示されているが、含まれるのは方法、ステップまたは機能についての説明のみで当該端末装置についての記述はなく、さらに言えば明細書には端末装置の「構成」について特定の実装がなく、従ってノキアの特許請求の範囲は明細書と合一して明確に決定することはできないと判示しました。結果として、一審裁判所は華勤がノキアの特許の実施行為を行ったかどうかを判断することは不可能であり、華勤は侵害を構成しない、と判示しました。続く二審においても一審の判決が支持されました。


概要

ノキアは請求項7に関し、当業者であればその各技術的特徴がどのように「構成」され、またその構造がどのように改善されたかも理解できると具申しています。無効決定において、CNIPAの復審査委員会はクレームが明確で、明細書に完全に開示されており、且つ明細書により裏付けられていることを確認しています。

しかし、特許無効請求の段階では有効であったこのクレームは、侵害訴訟の段階では支持されませんでした。具体的には、裁判所は、端末装置の特定の実装が明細書に具体的に開示されていないため、この装置のクレームは不明確であると判断しました。これは言い換えれば、この特許には本質的に行使可能な権利がないという線引きをしたことになり、それは「無効」であると言っているのと大差ないということです。