十大案件 | 「防爆装置」実用新案無効案件の評価分析

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[ 2022-08-16 ]

 

複数の技術的特徴間の協同関係が進歩性に与える影響

 

関連専利の名称は「防爆装置」(専利号ZL201521112402.7)、専利権者は「宁德代新能源科技股份有限公司」で、専利権無効宣告の請求人は「莞塔菲新能源科技有限公司」と「江塔菲新能源科技股份有限公司」である。

 

関連専利の審理は、構造類の請求項の進歩性を判断する際に、請求項に記載された技術案と最も近い従来技術とを比較して多くの相違する特徴があり、これらの相違する特徴が複数の技術課題を解決したことに関する。ここで、該当技術案の従来技術に対する主な改善点をどう理解するか、さらに、技術の改善点として複数の特徴間の協同関係が請求項の進歩性に与える影響をどう考えるか。

 

本事件の審理では、進歩性の判断において複数の技術的特徴で構成された請求項について、比較過程で発明に対する貢献度を分離することを避けなければならず、単純に段落や意味的観点から請求項を機械的に切ってはならないことを解説した。もし請求項における複数の技術的特徴の間が、機能的に相互依存し互いに協同して作用し、また技術課題を解決して技術効果を奏する上で緊密な関連がある場合、当該技術的特徴が請求項の進歩性に及ぼす影響について全般的に考慮しなければならない。具体的な分析は次のとおりである。

 

案件概要

 

専利権者は、無効審判請求手続において請求の範囲について補正を行い、請求項2、4を請求項1に併合した。補正後の請求項1は次のとおりである。

 

【請求項1

防爆装置において、トップカバー補強機構、バッテリー内部圧力放出に使用される防爆ピース及びバッテリートップカバーを含み、前記補強機構は補強リングを含み、前記バッテリートップカバーに縦貫通ホールが開設され、前記補強リングは前記バッテリートップカバーの外部表面に固定され、かつ前記縦貫通ホールの周囲を取り囲み、前記防爆ピースは前記縦貫通ホールを覆い、かつ前記防爆ピースの周辺は前記バッテリートップカバーの内部表面に固定され、前記防爆装置はさらに保護層を含み、前記保護層は前記補強リングの前記バッテリートップカバーの外部表面から離れる面に付着され、かつ前記縦貫通ホールを覆い、前記保護層、前記防爆ピース及び前記縦貫通ホールのホール壁は共に囲まれて密閉チャンバーを形成し、前記防爆装置はさらに連通機構を含み、前記連通機構は前記補強リングに備えられ、前記連通機構の一端は前記密閉チャンバーまで延び、前記連通機構の他方の端は補強リングの縁まで延びて前記密閉チャンバーが外部に連通されるようにすることを特徴とする。

 

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請求人は、15個の従来技術の証拠を提出し、複数の証拠を組み合わせる方式で請求項の進歩性を評価することを主張した。請求人が提出した証拠1を最も近い従来技術として主に進歩性評価をすることを例とする。

証拠1は、カバープレートの本体を含み、カバープレートの本体の中央部に外側に突出した突出部が設けられ、ボスの中央に防爆孔が設けられ、ボスの縁に複数のガス抜き穴が設けられ、防爆孔の上端に弾性体の保護シートが取り付けられ、防爆孔の下端が防爆膜で覆われている動力バッテリーのカバー組立体を開示する。証拠1では、当該専利における補強構造及び連通機構に関する技術的特徴が開示されていない。

 

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補正後の請求項1が保護しようとする技術案の証拠1に対する相違する特徴は以下の通りである。即ち、補強リングは前記バッテリートップカバーの外部表面に固定される。連通機構の一端は前記密閉チャンバーまで延び、前記連通機構の他方の端は補強リングの縁まで延びて前記密閉チャンバーが外部に連通されるようにする。請求人は、相違する特徴は証拠2により開示され、相違する特徴は証拠6により開示され又は公知常識に属し、請求項1は証拠1、証拠2及び公知常識の結合に対し、または証拠1と証拠6及び公知常識に対し進歩性を有しないと主張した。

 

本事件における進歩性判断の鍵となるのは、当該専利が従来技術に対する主な改善点をどのように理解し、さらに、技術的改善点としての複数の特徴間の協同関係が請求項の進歩性に与える影響をどのように考慮するかである。

 

明細書及び図面を結合して具体的に記載した当該専利の技術案から、当該専利の従来技術に対する主な改善点は以下のとおりであることが十分理解できる。即ち、バッテリートップカバーに補強リング及び保護層を増設し、密閉チャンバー、連通機構と緊密な関係をもち、連通機構も前記の構造に基づいて設置され、バッテリー気密性検出及び防爆ピースの破損検出を容易にすることにより、品質検査効率が向上されるとともに、バッテリーの安全性と使用信頼性が向上される。したがって、前記の相違する特徴に基づいて、当該専利が実際に解決した技術課題は、バッテリートップカバーの強度を補強するとともに、バッテリートップカバーが防爆ピースを固定する時に変形しにくくし、気密性検出によりバッテリーの安全性及び使用信頼性を向上させることである確認できる。

 

証拠2は動力バッテリートップカバーを開示したが、それは防爆孔2と注入孔3が備えられたトップカバーピースを含み、防爆バルブ6は防爆孔2に固定されて備えられ、突出部7はトップカバーピース1に備えられ、動力バッテリートップカバー突出部7を備え、防爆バルブ6でのトップカバーピース1の強度を補強し、構造が簡単で容易に形成できる。証拠2は当該専利の補強リングを開示したが、連通機構に関連する技術的特徴は開示していない。

 

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  証拠6は制御バルブ装置を含むバッテリーカバーを開示したが、そのバッテリーカバー1は排気口3と、バッテリーカバー1に固定され排気口3をカバーする制御バルブ4とを備え、排気栓5はカバー1の外側に固定され、環状部分は前記排気口3を囲み、制御バルブ4、排気栓5の蓋部分および環状部分は取り囲んで密閉チャンバーを形成し、排気栓5には水平に延長される狭い隙間形の排気口部6が備えられる。ここから、証拠6の未開示の密閉チャンバーが当該専利の密閉チャンバーと異なり、その開示された排気口部はバッテリー内部過圧排気と制御バルブに対する気密性検測に使われ、防爆ピースに対する気密性検測のための連通機構も開示していないことがわかる。

 

前記の分析に基づき、当該専利の技術案においては、バッテリーのトップカバーに補強リングと保護層が増設され、それらは密閉チャンバー及び連通機構と緊密な関係を持ち、保護層、防爆ピース及び縦貫通ホールのホール壁は一緒に囲まれて密閉チャンバーを形成し、連通機構も前記密閉チャンバーの構造に基づいて設置され、密閉チャンバーを外部と連通させることにより、バッテリーの気密性検出と防爆ピースの破損検出を容易にし、品質検査効率を向上させると同時にバッテリーの安全性と使用信頼性を向上させる。

 

実際には、請求人が提出した従来技術の証拠には、補強リングが開示されていない、または連通機構が開示されていない、またはその両方が開示されておらず、関連専利の密閉チャンバーから連通機構までの構造、最終的に解決したバッテリーの気密性検出及び防爆ピース破損検出の問題の設計思路を開示していない。たが、その全体的な構造及び解決する一然の技術課題と奏する技術効果は、関連専利の明細書に明確に記載されており、互いに緊密につながっている。しかし、請求人が提出したすべての証拠には全く言及されておらず、このような証拠から結合する明らかな技術示唆が得られなかった。したがって、上記密閉チャンバー、強化リングおよび連通機構などの技術特徴は、互いに構造と機能上で協同作用が存在し、緊密な連携があるので、これを分離してはならず、請求項の進歩性に及ぼす影響を全般的に考慮しなければならない。したがって、補正後の請求項1は請求人が主張した様々な証拠の結合方式のいずれに対して進歩性を備える。

 

中国国家知識産権局は20217月に無効宣告請求審決を下し、専利権者が提出した補正後の請求項1~8に基づき専利権の有効を維持した。

 

啓示と思考

 

この事件の裏面には、ここ数年間、新エネルギー自動車バッテリー業界の競争が日増しに激しくなっていることを反映している。本事件の専利権者と請求人のいずれも中国動力バッテリー搭載量トップ10に入る企業である。20203月、原告の「宁德代新能源科技股份有限公司」は「莞塔菲新能源科技有限公司」と「江塔菲新能源科技股份有限公司」対して、上記の「防爆装置」の実用新案を無断侵害したとして訴訟を起こし、原告は経済的損失として損害賠償額12億人民元を請求した。この事件は、国内初の新エネルギー車バッテリー専利侵害事件で、国内リチウムバッテリーの専利権行使に向けた序幕を開いた。「莞塔菲新能源科技有限公司」と「江塔菲新能源科技股份有限公司」は関連専利について国家知的財産権局に3回の専利権無効宣告請求を提出した。福建省高級人民法院は、専利権者が無効宣告手続において提出した請求項1~8に基づき、被疑侵害製品が本事件専利の保護範囲に含まれると認定した。最終的には双方は和解を達成した。

 

本事件は、新エネルギー分野における製品構造類の案件の進歩性の判断について詳細に解説しており、如何に当業者の角度に基づいて構造が複雑な請求項に対して進歩性の判断を行うか、特に複数の特徴間の協同関係が請求項の進歩性に影響を与えるかどうかを深く分析している。「専利審査指南」第二部分第4章では、「機能上的に相互に支え合い、相互作用の関係にある技術的特徴については、その技術的特徴及びそれら間の関係が保護しようとする発明において奏する技術的効果を全般的に考慮しなければならない」と規定している。請求人は専利無効宣告理由において、請求項の技術的特徴を分離して解析し、それぞれ複数の従来技術の証拠を引用して「各個撃破」したが、このような分離して解釈することは、複数の構造特徴間の密接な協同関係を裂けることであり、相互の協同関係を無視することである。このような技術的特徴を破片化する現象は、異なる従来技術に散らばった技術的特徴または技術的特徴の一部を単純に集めて先行技術に技術啓示が存在するという問題を起こしやすい。

 

本事件の合議体は審理において、まず、当業者の立場から専利及び証拠に開示された技術内容を十分に理解し、当該専利が実際に解決しようとする技術問題、相応する改善の考え方及び技術効果を明確にした;次に、従来技術に技術示唆があるかどうか判断する際に、関連専利が技術問題を解決するため全体的な解決案を提供したことを考慮し、技術の改善点としての複数の構造的特徴間の密接な協同関係を分析し、相応する技術問題を解決するとともに従来技術では言及しなかった技術効果が得られたことを考慮した。これに基づいて、従来技術では、複数の証拠を結合して関連専利が保護しようとする技術案を得る技術示唆がなかったと認定した。

 

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