Foundinニュースレター2021年6月号―実際に解決する課題から見る引用文献結合の可能性

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[ 2021-07-22 ]

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実際に解決する課題から見る引用文献結合の可能性

出典:雑誌『中国知識産権』 出典:雑誌『中国知識産権』

著者: 羅暢 中国家知識産権局 専利湖北専利審査協力センター 湖北専利審査協力センター 湖北専利審査協力センター 湖北専利審査協力センター 審査官

陳晨 中国家知識産権局 専利湖北専利審査協力センター 湖北専利審査協力センター 湖北専利審査協力センター 湖北専利審査協力センター 審査官

 

 

  中国国家知識産権局が打ち出した「3 方面からの審査を主軸とする」業務理念中、進歩性は特許実体審 査の中で最も常用される基準です。複数の引用文献を勘案し評価することは、進歩性の尺度把握の難点 と言えます。このため、進歩性の講評において証拠の組み合わせの有効性を高めるのは、特許審査の 質を高めるためのポイントとなります。

 

  『専利審査指南』(2010、略称『指南』)では第二部分第四章 3.2.1.1 条において、「3 つの手順」を採用して 発明が先行技術に対して自明なことであるかどうかを判断する、と規定されています。『指南』は複数の 引用文献を組み合わせた進歩性への講評に対する原則を示しています。それは、審査官に対し技術手 段を理解した上で発明のコンセプトを正確に把握し、その発明が最も近い先行技術に対し解決する技術 課題を正確に探し出し、案件の先行きを正確に判断することが要求されるということでもあります。

 

 

技術課題確定の原則 

 

  技術課題を確定することは引用文献に結合する技術的示唆がないかどうかを判断する決め手となりま す。ヨーロッパ特許庁はその指南『Guidelines for Examination in the European Patent Office』の中で、 “一つの数学的方法がある特定の技術課題(例として画像処理)に応用されるとき、それは進歩性を備え る”と見做しています。このことからも、技術課題が進歩性において重要な位置を占めていることがわかり ます。しかし、発明が実際に解決する技術課題を如何にして確定するかは進歩性を判断する上での難点 のひとつです。それは技術課題を新たに確定するとき、そこには主観が存在すると同時に、審査官の当 該分野技術の把握程度や、当業者のポジションの能力の影響を受けるからです。そのため、如何にして 可能な限り実際に解決する技術課題の審査基準を統一するかが、進歩性審査における大きな問題とな ります。

 

  筆者が審査の実践を行う上で整理した、実際に解決する技術課題を正確に確定するための拠り所となる 3 つの原則を以下にお伝えしたいと思います。

 

 

総括的原則 

 

  まず、発明の先行技術に対する相違する技術的特徴が解決する技術課題は、技術手段の全体から逸脱 するものであってはなりません。技術的特徴が技術手段を逸脱するものであればその技術的効果は千態 万状となりますが、技術的特徴が特定の技術手段と組み合わされており、その全ての技術的特徴は当該 技術手段の中で特定の作用を発揮するものとなります。次に、先行技術の中で相違する技術的特徴が 解決する技術課題を考慮しますが、こうすることで相違する技術的特徴がその特許出願において解決す る技術課題をより良く定義することが可能となります。 

 

 

具体的原則

 

  発明が実際に解決する技術課題は技術的効果に対応するものであり、技術的効果から技術課題を逆推 定することが可能です。しかし、技術課題は効果を体現する形容詞でしかなく、技術的特徴をその中に含 むことはできないのでしょうか?技術課題を正確に確定することは、「更に高度な、更に早い、更に強い」 というような形容詞のみを使用するだけでなく、必要な技術的特徴を含み、技術課題を具体化することで 技術課題を合理的な範囲内に限定するものであるべきだと筆者は考えます。 カバーする範囲の広い技 術課題は必然的に結合する技術的示唆の誤判断や、組み合わせてはならない引用文献が開示する内 容が実際の技術課題を解決すると認識してしまうことにつながります。技術課題の上位化と抽象化は、審 査の過程において比較的良く見られる誤りです。技術課題の具対化を実現させるには、発明のコンセプト を当業者のポジションで十分理解する必要があります。 

 

 

客観的原則 

 

  ヨーロッパ特許庁は「課題-解決アプローチ」を採用し進歩性を評価しています。この方法では技術課題 は最も近い先行技術の修正或は改善であり、出願された特許に最も近い先行技術が提供する技術的効 果の原因と任務を提供し、定義する技術課題は「客観的な解決すべき技術課題」であり、また 「客観的な 解決すべき技術課題」は客観的に確定した事実に基づくと考えます。我が国の「専利法」における進歩性 判断の方法はこのヨーロッパ特許庁のものを受け継いでいるため、ヨーロッパ特許庁が採用する「客観的 な解決すべき技術課題」は我が国の進歩性審査の実践においても高い適応性を有するものであります。 技術課題の客観性は個人に起因する要素の影響を受けず、客観的な事実に基づいて確定されます。こ れには技術課題を確定する前に客観的事実を明確にし、 当業者の視点から相違する技術的特徴がも たらす作用を取り扱うことを通して客観的に技術課題を確定することが要求されます。新たに技術課題を 確定するには、客観的に一番近い先行技術から順に、その技術課題に出願特許の指し示す内容が含ま れないことを確定させてゆくことが必要です。例えば、ある特許の出願がエンジン部品の熱力学カップリン グの分析方法の保護の要求であり、最も近い先行技術はキャノピー構造の熱力学カップリングの分析方 法を開示しているとします。二者の違いは分析の対象であり、確定する技術課題は「エンジン部品におけ る熱力学カップリングの分析方法」ではなく、即ち技術課題に相違する技術的特徴のみを含むもの、ひい ては確定する技術課題が端から特許出願の発明の高度を引き下げるものであってはなりません。

 

  上記の 3 つの原則は出願特許の実際に解決する技術課題の確定に対する指針となります。総括的原則 は基礎であり、この総括的原則を把握せずに確定した技術課題は方向性に問題を有することになりま す。具体的原則と客観的原則は正確に技術課題を確定するための一般的な方法を指し示しています。審 査の実践においては上記 3 つの原則を組み合わせ、正方向から出願特許の発明過程を復元した上で進 歩性について正確な判断を行っていく必要があります。同時に、技術的特徴を切り離して考えることも進 歩性の判断における誤りのひとつです。正確な技術課題は技術的特徴の分割が存在するか否かを理解 するための助力となります。 

 

 

ケーススタディー

  以下、実際の例を挙げる形で出願特許中の技術課題の決定の方法を探っていきたいと思います。

 

 

ケース1

 

  本出願特許の背景として記載されている技術課題・・・タッチパネルでの操作を基本とするモバイル端末 が電話帳を一例とするリストを表示するとき、多選択肢インタフェースのメニューを選択表示するには通常 選択メニューを選択し、それからその選択メニュー上で多選択肢を選択することで複数の選択肢を表示 し、必要な複数のアイテムを選択する。このような操作方法は大変複雑である。

 

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核心となる技術的手段・・・タッチコントロールの種類がマルチタッチであり、且つ異なるリストアイテムが 複数選択されていることを感知したとき、複数選択リストのインタフェースを表示する。 

 

【請求項1】・・・タッチパネル上で複数選択リストのインタフェースを表示する方法において、リストのインタ フェースを表示するステップと、タッチコントロールの種類がマルチタッチであり、且つ異なるリストアイテム が複数選択されていることを感知したとき、複数選択リストのインタフェースを表示するステップを含むこと を特徴とする方法。 

 

先行技術の検索を通して引用文献 1 を採用し、当該特許申請の進歩性を講評し、またタッチコントロール の種類がマルチタッチであり、且つ異なるサブ画面を複数選択しているとき、複数選択リストのインタフェ ースを表示することを開示しています。

 

相違する技術的特徴・・・請求項1の方法において多選択肢をトリガーする条件はマルチタッチが実行さ れ且つ異なるリストアイテムが複数選択されることです。対して引用文献1に開示されているのはマルチ タッチが実行され且つ画面の異なるエリアを複数タッチしていることです。

 

判断1・・・出願特許と引用文献間の差異は機能をトリガーする方式のみであることから、この差異がもた らす技術的効果も異なる作動方式を選択することのみである。従い請求項 1 が実際に解決する技術課 題は、複数選択モードの作動方式であると確定することができる。引用文献1ではマルチタッチ且つ画面 の異なるエリアを複数タッチしていることが既に開示されており、またリストアイテムは画面表示において 標準的な表示エリアであることから、当業者は相応しいインタフェース表示エリアの区別方法を合理的に 選択し、表示インタフェース上で異なるリストアイテムを異なるインタフェースが区別するエリアとすること ができる。これは当該分野における標準的な技術的手段である。

 

 

  判断1の中で採用した講評方法は合理的であるように見えます。しかし実は技術課題を確定する段階に おいて客観的原則に反しています。最初に、特別な特徴がもたらす技術的効果を確定する際、その思考 は本来引用文献1の技術内容から出発した正方向の推定をするべきところを、実際には当該出願特許の 技術手段及び先行技術を了解した後、複数選択モード機能の複数のトリガーの存在、さらに事後判断で ある「複数選択モードの作動方式」という技術課題の存在を導き出しています。この技術課題は引用文献 と出願特許の技術手段を了解したという基礎の上で導き出されたものであり、技術変遷の過程が欠落し ており、客観的なものではありません。審査の実践においては往々にして引用文献と出願特許の技術手 段を平等なものとして捉え、「下衆の後知恵」的なミスを犯してしまいがちです。客観的な審査でのロジッ クは、最も近い先行技術を起点として、出願特許資料の技術手段を終点として採用するべきです。起点と 終点の間の大きなギャップについては、先行技術にそのギャップを越える示唆がないかどうかを客観的 に判断するべきです。もし先行技術と出願特許の技術手段を平等に捉えた場合、これは二者択一の作業 となり、主観上では既に特許出願の革新の高度を引き下げていることになります。

 

  判断1で確定した技術課題は、同時に総括的原則にも反しています。出願特許においてその相違する技 術的特徴がもたらす作用を明確にし、更にその実際に解決する技術課題をも明確にする必要がありま す。本出願特許について言えば、この相違する技術的特徴が本出願中においてもたらす作用はグラフィ カルインタフェースに基づき作動する多選択肢機能であり、よって総括的原則と客観的原則を総合すれ ば、正確な技術課題は、異なるリストアイテムから多選択肢モード機能を作動させる方法となります。

 

  そして、技術課題が正確であれば、それを通して組み合わせが必要な引用文献2は異なるリストアイテム を複数選択することにより作動する多選択モード機能 であることをシミュレーションできます。ここからこ の引用文献2は本特許出願の X 類の引用文献とすることができることがわかります。ですから、技術的 特徴の分割が存在するか否か、即ち引用文献1が開示する内容に基づき区別した相違する技術的特徴 が本出願特許の核心となる技術的手段を分割しているか否か、の再考が必要です。

 

  この案件は総括的原則と客観的原則が実際に解決する技術課題を決定する際にもたらす作用を明らか にしています。総括的原則の中で、もし技術手段を逸脱して技術的特徴が到達する技術的効果とそれに 対応する技術課題を考えるのであれば、技術的特徴自身がわかりやすいものであるかどうかだけに囚わ れるという過ちに陥ってしまう可能性があります。このため、相違する技術的特徴が実際に解決する技術 課題を確定するとき、それを発明の技術手段の全体において考慮するべきであり、切り離してして考える べきではありません。客観的原則では、発明の技術手段のコンセプト復元を実現するために、最も近い先 行技術から出発した正方向からの出願特許の技術手段の復元が要求されます。上記の原則を逸脱する ことは確定した技術課題が不正確であることにつながり、その中でも最も良く見られる過ちは、核心となる 技術的特徴の間の強い関係性が切り離されてしまうことです。技術的特徴間の関係性を無視することは 技術的特徴自体の作用のみに注目した結果技術手段の進歩性の高度を大幅に引き下げる、という誤っ た結果につながります。 

 

 

ケース2

本出願特許の背景として記載されている技術課題・・・モバイル端末において、特定のインタフェースにあ って当座のインタフェース関連の指定操作を行うとき、往々にして多重のステップを経てやっと目的が実 現される。多くの状況において当座のインタフェースに関連する操作を行うとき多重ステップを必要とす る。相応のショートカット操作は存在せず、目的実現までの操作効率を大幅に落としている。

 

核心となる技術的手段・・・ユーザの視線が当座のインタフェースに留まっていることが人間の目で検知さ れ、且つ当該モバイル端末がプリセットした範囲内で位置の変化を発生したことを検知したとき、当座のイ ンタフェースに対応するプリセット操作を作動する。

 

【請求項1】・・・モバイル端末のショートカット操作を実現する方法であって、モバイル端末の当座のインタ フェースが指定されたインタフェースであるとき、ユーザの視線が当座のインタフェースに留まっているこ とが人間の目で検知され、且つ当該モバイル端末のセンサ装置を通して当該モバイル端末がプリセットし た範囲内で位置の変化を発生したことを検知すると、当座のインタフェースに対応するプリセット操作を作 動することを特徴とする方法。 

 

  先行技術の検索を通して引用文献 1 と 2 を採用し、それらを組み合わせて本出願特許の進歩性を講評 しています。引用文献 1 はモバイル端末の当座のインタフェースが指定されたインタフェースであるとき、 当該モバイル端末のセンサ装置を通して当該モバイル端末がプリセットした範囲内で位置の変化を発生 したことを検知すると、当座のインタフェースに対応するプリセット操作を作動することを開示しています。

 

  このことから、本出願特許の請求項1と引用文献1とを分ける相違する技術的特徴は、当座のインタフェ ースに対応するプリセット操作の作動条件であること、さらにそれにはユーザの視線が当座のインタフェ ースに留まっていることが人間の目で検知されることが含まれることがわかります。

 

  技術課題を確定する際総括的原則と客観的原則のみに基づき、具体的原則を考慮しなかった場合、本 特許出願にとっては上記の相違する技術的特徴が本出願においてもたらす作用は操作精度の向上とな り、当該の技術課題は顕著に上位化されてしまします。もし先行技術の中にユーザの視線が当座のイン タフェースに留まっていることが人間の目で検知されることがトリガーとなりフロントカメラが反応し撮影機 能を作動するという技術手段Bが存在する場合、当該技術手段における人間の目で視線の停留を検知 する機能は同様に操作制度を向上させるものであり、よって従来技術1と技術手段Bを組み合わせると、 本出願は進歩性は有しないと評価できます。しかし、フロントカメラの撮影機能作動とインタフェースのプ リセット操作との間には比較的大きな差異があり、当業者がカメラの起動から示唆を受けそれをインタフェ ースのプリセット操作という分野に応用できるかどうかについては、明らかに議論の余地が存在します。 議論の余地を生む原因はまさに、新たに確定した技術課題が具体的原則をなおざりにしているからで す。具体的原則に基づけば、ユーザ視線の停留の検知がもたらす作用は全ての操作の精度を高めるも のではなく、インタフェースの作動というより具体的な操作の精度を高めるものとなります。従って、最終 的に確定する技術課題は、インタフェース作動操作の精度を高める方法、とういうことになります。

 

  この技術課題がシミュレーションできる引用文献2は、インタフェース作動操作中に視線の停留を検知す る方法を開示するものであるべきです。先行技術の検索を通して得た引用文献2は、視線がパネルのプ リセットされた範囲にあることを検知した時にインタフェースの操作を作動することを開示しています。この ため、引用文献1と2を組み合わせて出願特許の進歩性を講評し、技術的特徴の割裂を解消することが できます。 

 

  具体的原則を把握することは技術課題を合理的な範囲内に限定することであり、具体的原則は技術課題 が言及する応用分野と出願特許とが完全に一致するべきと凝り固まって考えるべきではありません。任 意の応用分野を上位化することは明らかなもう一種の極端な過ちであり、避けなければなりません。技術 課題が言及する応用分野或は技術的手段が限定する程度は、当業者のスタンスを十分に踏まえ、応用 分野または技術的手段との間の距離を判断する必要があります。本出願特許でいえば、先行技術中で は人の目でユーザの視線が当座のインタフェースにあることを検知した時にパネルのプリセット機能を作 動することを採用しているとして、さらに当業者がパネルのプリセット機能とインタフェースのプリセット機 能を容易に関連付けて応用することができるなら、このような状況下においてこの出願特許の進歩性は 講評できると考えられます。


  技術課題と出願特許が言及する技術的手段、応用分野が一致すること、これは一種の理想ですが、隣 接しあう技術分野、あるいは似通った技術的手段中における技術的示唆の存在は、具体的原則によって 排除することはできません。ですから、具体的原則を把握するには当業者のスタンスを正確に踏まえ、技 術的示唆を与える引用文献は技術課題の範囲に入れ、与えない引用文献は外していくという、合理的な 線引きをすることが必要です。

 

結論  

 

  本文は『専利審査指南』の規定に基づき、審査実務経験及びヨーロッパ特許庁の流儀を組み合わせて結 論付けた、技術課題確定のための3つの原則―総括的原則、具体的原則及び客観的原則と、更に具体 的なケースを 2 つ採りあげて上記 3 つの原則を運用した技術課題の正確な確定方法についてご紹介し ました。相違する技術的特徴が実際に解決する技術課題を確定するとき、それを技術手段の全体におい て考慮し、切り離して捉えないこと。客観的原則においては発明の技術手段のコンセプト復元を実現する ために最も近い先行技術から出発して正方向から出願特許の技術手段の復元を進めること。具体的原 則を把握するには当業者のスタンスを正確に踏まえ、技術的示唆を与える引用文献は技術課題の範囲 に入れ、与えない引用文献は外していくという、合理的な線引きをすること。上記 3 つの原則の把握は、 審査官が進歩性を講評する上でその審査標準を統一することに効果を発揮するものであります。

 

参考文献 

[1] 中華人民共和国国家知識産権局『専利審査指南』2010 年、北京 知識産権出版社 2010:172-174

[2] European Patent Office.Guidelines for Examination in the European Patent Office[M].European Patent Office, 2019: Part G – Chapter VII-5. 

 


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