補足実験データの受諾

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[ 2024-08-16 ]

――(2029)最高法知行終33

裁判要旨

医薬品特許の出願人または権利者が出願日以降に補足実験データを提出し、そのデータにより特許出願または特許が進歩性を備えること、特許請求項が明細書によって支持されることを証明できると主張した場合、人民法院はそれを審理しなければならない。原特許出願書類に補足実験データが直接証明しようとする要証事実を明示的に記載または暗黙的に開示され、出願人が補足実験データによって原特許出願書類の固有の内在的欠陥を克服することではなかった場合、補足実験データを受諾し、要証事実を証明できるかどうかをさらに審査することができる。

キーワード

行政 特許権の無効審判 医薬品特許 補足実験データ

事件の経緯

スウェーデン某公司は、特許番号が200610002509.5で、名称が「トリアゾール[45−D]ピリミジン化合物の新結晶形と非晶形」である特許(本特許)の権利者である。

深セン某製薬公司は本特許の無効審判を請求したが、その主な理由は本特許の請求項14が進歩性を備えていないことである。本特許が進歩性を備えることを証明するために、スウェーデン某公司は補足実験データを提出して、本特許が明細書に記載された「驚くほどの高い代謝安定性」という当業者が予想できなかった技術効果を有して進歩性を備えることを証明しようとした。

国家知識財産権局は、スウェーデン某公司が提出した補足実験データは受諾すべきではなく、たとえ受諾したとしても上記の技術効果を証明できず、本特許は進歩性を備えないと判断し、第33975号無効審判の審決(以下、被訴決定)を下して、本特許の請求項14に対し無効宣告をした。

スウェーデン某公司は不服として行政訴訟を提起した。北京知識産権法院は2019225日(2018)北京73行初2034号行政判決を下してスウェーデン某公司の訴訟請求を棄却した。

スウェーデン某公司は一審判決に不服して控訴を提出して、一審判決と被訴決定の取り消しを請求した。最高人民法院は、被訴決定及び一審判決における補足実験データを受諾すべきではないとの認定に誤りがあると判断したが、本特許が進歩性を備えていないとの結論は正しいと認定し、20201026日(2019)最高法知行終33号行政判決を下して、控訴を棄却して原判決を維持した。

裁判意見

法院の発効判決は、従来技術に対する認識の相違、技術案の発明点に対する理解の相違、当業者の認知レベルの把握の不一致などにより、出願人が原出願書類に特定の実験データを記載していない状況は避けられないと認めた。

例えば、進歩性については、化合物医薬品の進歩性は化合物自体の構造または形態に基づいてもよく、化合物医薬品の薬効に基づいてもよい。その中、薬効は薬物用途、即ち適応症であってもよく、薬物効果、即ち薬物活性、薬物毒性、薬物安定性、放出速度の制御などであってもよい。

上記のいずれの方面において自明ではない技術的貢献は、いずれも技術案が実際に解決する技術問題を確定する根拠として、技術案が特許権の進歩性要求を満たすようにすることができ、出願人は出願日または優先日に発明点を正確に予測することに困難があった。出願人が発明点について正確な事前判断をしたとしても、同一の技術問題に対して、従来技術に対する異なる理解と最も近い従来技術に対する異なる選択に基づいて、自明ではない技術的貢献を証明するために必要な事実とデータが異なる可能性がある。

したがって、特許出願人は、出願日または優先日の後に提出した補足実験データに基づいて、特許出願が授権要件に満たしていることを証明する必要がある。特許出願人が出願日以降に提出した補足実験データについては、審査しなければならない。

補足実験データを受諾することによって特許権者が不当に先願の利益を取得することを避けるために、補足実験データの受諾において以下の問題を重点的に審査しなければならない。

まず、原特許出願書類は、補足実験データが直接証明しようとする要証事実を明示的に記載または暗黙的に開示しなければならず、これは積極的要件である。補足実験データが直接証明しようとする要証事実が原特許出願書類に明確に記載されているか、または暗黙的に開示している場合、出願人が関連研究を完了したと認定することができ、補足実験データの受諾は先出願原則に違反しない。

即ち、原特許出願書類に要証事実が記録されているが、関連の実験データが記録されていないからといって、出願人が不当な利益を得ることを目的とした不実記載を構成したと推定して、当たり前に関連の補足実験データを拒絶してはならない。また、出願人が不実記載をした可能性があるという理由で、当たり前にその提出した補足実験データが出願日又は優先日前に形成されることを要求してはならない。

本件において、原出願書類明細書の「背景技術」第部分[0005]段落には、補足実験データの要証事実、即ち「驚くほどの高い代謝安定性と生物利用率」が明確に記載されている。原審はこの記載が「背景技術」部分にあり、原特許出願書類にこれを支持する実験データが記載されていないとの理由でスウェーデン某公司が提出した補足実験データを受諾しなかったはことには根拠がない。

次に、出願人は原特許出願書類の固有の内在的欠陥を補足実験データによって補完してはならない、これは消極的要件である。いわゆる「補足実験データを通じて原特許出願書類の固有の内在的欠陥を補完してはならない」ということは、補足実験データが一般的に原特許出願書類に明確に記載されたり暗黙的に公開された要証事実の真実性を立証することを通じて出願人あるいは特許権者が最終的に立証しようとする法的要件に対する補完的証明の役割をするものであり、原特許出願書類に公開されていない内容を独立的に証明し、さらに原特許出願書類自体の不十分な公開のような欠陥を克服するのではないことを強調しようとすることにその意味がある。

本件の場合、スウェーデン某公司が提供した補足実験データは、要証事実の真実性を立証し、最終的に立証すべき法的要件事実を補完しようしたことで、即ち請求項1が進歩性を備えることを証明しようとした。従って、この補足実験データは原特許出願書類の固有の内在的欠陥を克服するためではないので、受諾されなければならない。

また、原審判決は、本件の補足実験データを受諾してはならないと判断した理由には、反証5がスウェーデン某公司と利害関係にある証人が自主的に行た実験であり、傍証する他の証拠が不足していることを含む。これに対して、薬物研究開発分野、特に新薬研究開発において、研究開発主体は相対的に集中しているため、補足実験データのルースも相対的に集中している。

補足実験データの提供者は特許出願人または特許権者と雇用などの利害関係があり、研究開発規則と研究開発実践に合致し、それは補足実験データを受諾しない絶対的な理由となってはならない。

補足実験データは請求項1の化合物が「驚くほどの高い代謝安定性と生物利用率」を有することを立証できず、さらに請求項1の化合物が予想できない技術効果を有することを立証できず、請求項1は進歩性を備えないため、原審の法律適用の誤りを訂正した上で控訴を棄却し原判決を維持する。

ソース:最高人民法院知識産権法廷

https://ipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-3050.html