方法特徴を含む実用新案の新規性、進歩性判断

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[ 2024-10-30 ]

――(2021)最高法知行終422

裁判要旨

製品の形状、構造を含むとともに製品の製造方法も含む実用新案の請求項について、その新規性、進歩性を判断する際に、方法特徴により製品に何らかの特定の形状、構造をもたらすことができれば、当該方法特徴は、実用新案権の保護範囲に対して限定的ものである。なお、実用新案の新規性、進歩性の判断は、方法を従来技術の方法と比較するのではなく、方法によって特定された形状、構造を従来技術の形状、構造と比較しなければならない。

キーワード

実用新案の保護対象 方法特徴を含む実用新案の請求項 発明の思想 進歩性

事件の経緯

某機械製造公司は、登録番号が201520898029.6であり、名称が「無接着剤でテールをシールするエコロジーロール」である実用新案の権利者である。請求項1は、「ロールの最外層にあるロール最外周部を含む、無接着剤でテールをシールするエコロジーロールであって、当該ロール最外周部のテールに近接する箇所に、ロール軸方向に沿って表面から突出した圧着部が形成され、当該圧着部は、ロールの1巻(以下、技術案と略称する)又は複数巻(以下、技術案Bと略称する)のロール紙と当該ロール最外周部とを機械的層間圧着により挟んで又は押し出して形成されたものである、無接着剤でテールをシールするエコロジーロール。」である。2019226日、某紙業公司は、本実用新案権に対する無効審判請求を提起した。国家知識産権局は、201994日、請求項1の技術案Aが進歩性を備えておらず、本実用新案権の一部が無効になったこと、請求項1の技術案B及び技術案Bを引用する請求項2の技術案による本実用新案権の有効性を維持する旨の第41627号の無効審判審査決定を下した。某紙業公司は、無効審判審査決定に不服し、訴訟を提起し、被訴決定の取り消し、国家知識産権権局により改めて審査することを求めた。

一審法院は、2020122日に、1、国家知識産権局が下した第41627号の無効審判決定を取り消すこと、2、国家知識産権局は某紙業公司の第201520898029.6号実用新案への無効審判請求について改めて審査する旨の判決を下した。某機械製造公司は、当該判決に不服し、上訴を提起した。最高人民法院は、2023628日に、上訴を棄却し、原判決を維持する(2021)最高法知行終422号行政判決を下した。

裁判意見

法院発効判決は、以下のとおりである。実用新案の保護対象は、、製品の製造方法、使用方法、処理方法及び製品の特定の使用等に関わる新たな技術案を含まず、製品の形状、構造又はその組み合わせに関わる新たな技術案である。製品の形状、構造を含むとともに製品の製造方法も含む実用新案の請求項について、その新規性、進歩性を判断する際に、方法特徴により製品に何らかの特定の形状、構造をもたらすことができれば、当該方法特徴は、実用新案権の保護範囲に対して限定的ものである。なお、実用新案の新規性、進歩性の判断は、方法を従来技術の方法と比較するのではなく、方法によって特定された形状、構造を従来技術の形状、構造と比較し、それが従来技術によって開示されているか否か、当業者にとって自明であるか否か、を判断しなければならない。改善の動機を考慮する際には、製品の製造方法ではなく、製品そのものを立場として考えなければならない。製品そのものの形状、構造、またはこれらの組み合わせが従来技術に対して自明でなければ、進歩性に対して貢献があると認定されるべきである。原則として、請求項に含まれる方法が自明ではないという理由で、進歩性を備えると認定してはならない。また、実用新案の請求項における方法特徴が製品の形状、構造に影響を及ぼさない場合、原則として、当該方法特徴は、実用新案の保護範囲の限定にならない。この場合、、実用新案の新規性、進歩性を判断する際には、当該方法特徴以外の製品の形状、構造に関する技術的特徴を従来技術の形状、構造と比較しなければならない。

本実用新案は、ロール製品の実用新案であり、請求項1は製品の形状、構造を含むとともに製造方法も含む。被訴決定において、請求項1の技術案Bと証拠1との相違点が、1.圧着部のロール紙の層数が異なる、2.圧着部の機械的層間圧着方式が異なる、との認定があった。本実用新案の圧着部は、対向する2方向から同時に力を加えることによって形成され、証拠1の構成は、一方向から力を加えることによって形成された。これについて、本実用新案権の保護対象が、当該ロールを製造する方法ではなく、ロール自体の形状、構造又はそのその組み合わせであり、保護範囲の認定、新規性、進歩性の認定を行う際に、製品の形状、構造またはその組み合わせに影響を与えない製造方法の技術特徴を排除すべきである。本実用新案の請求項1には、両方向から力を加えて押圧することが記載されていない。例え両方向から中間に力を加えることが限定されたとしても、それは圧着部の形成に対する限定に過ぎず、一方向からの押圧および両方向からの押圧が、いずれも形成された圧着部およびロールの形状、構造に影響を与えることはない。したがって、本実用新案の請求項1の技術案Bは、圧着方式に関する技術的特徴が、本実用新案の保護対象ではなく、創造性の認定を行う際に、従来技術との相違として考慮すべきではない。したがって、本実用新案の請求項1の技術案Bと証拠1の相違は、圧着部のロール紙の層数だけである。本実用新案の圧着部は、複数巻のロール紙とテールが圧着されることによって形成され、これに対し証拠1の圧着部は、1巻のロール紙とテールが圧着されることによって形成される。以上の区別的特徴に基づき、本実用新案の請求項1の技術案Bは、証拠1に対して実際に解決しようとする技術的問題が、如何にして圧着部の安定性を向上させることである。

当該区別的特徴が当業者にとって自明であるかどうかについて、証拠1および本実用新案の圧着部を設ける目的は、いずれもロール紙のテールを固定し、ロール紙の巻き戻りを防止することである。証拠1に開示されたロール紙製造装置及び方法により、複数巻のロール紙とロール最外周部を圧着してロールを製造することはできなく、当業者として証拠1の装置及び方法を複数巻のロール紙とロール最外周部を圧着するロール装置及び方法に改良する動機付けがないが、改善の動機付けを考慮する際に、製品の製造方法ではなく、製品そのものを立場として考えなければならない。製品そのものの形状、構造、または組み合わせが従来技術に対して自明でなければ、進歩性に対して貢献があると認定されるべきである。原則として、請求項に含まれる方法が自明ではないという理由で、進歩性を備えると認定してはならない。本件について、当業者として圧着部の安定性をさらに向上させるために、証拠1の1巻のロール紙とロール最外周部を圧着してなるロールを製造する製造の装置及び方法を、複数巻のロール紙とロール最外周部を圧着してなるロールを製造する製造の装置及び方法に改良する動機付けがあるかではなく、証拠1の装置及び方法を用いて製造されたロール製品を改良し、1巻のロール紙とロール最外周部を圧着してなるロールを複数巻のロール紙とロール最外周部を圧着してなるロールに改良する動機付けがあるかを考慮すべきである。当業者であれば、ロール紙の1巻の層数が単層でもよいし多層でもよく、層数が少ないほど紙が薄くなり、繊維強度が弱くなり、単層のロール紙を機械的層間圧着すると、圧着部は明らかに安定しておらず、機械的に圧着される圧着部の層数が多いほど厚くなり、より強固になることがよく知られている。証拠1には、紙の多層、複数枚の機械的層間結合がよく知られていることが明記されているので、当業者であれば、圧着部の安定性を高め、より良いシール効果を得るために、ロール最外周部と圧着するロール紙の巻数を増やし、複数巻のロール紙とロール最外周部を圧着することを容易に想到できる。したがって、請求項1の技術案Bは証拠1に対して進歩性を備えていない。

被訴決定における「本実用新案は、比較的簡単な工程及び設備により解決しようとする技術的課題を解決することができ、さらに圧着部の安定性を向上させ、有益な技術的効果をもたらすので、請求項1の技術案Bは証拠1に対して進歩性を備える」旨の認定は、本実用新案の製品を製造する方法を本実用新案の発明点とし、従来の技術には当該製造方法の技術的示唆が存在しておらず、それに基づいて本実用新案が進歩性を備えるとのものであった。この認定は、実用新案の保護対象から逸脱し、事実上及び法的根拠を欠いている。

ソース:最高人民法院知識産権法廷

https://ipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-3366.html