裁判要旨
当業者は、請求の範囲及び明細書を読んで、請求の範囲に明らかな誤記があり、かつこの誤記を唯一に確定できる場合、原則として請求の範囲が明確であると認定しなければなりません。当事者は、このような明らかな誤記があったという理由だけで請求の範囲が不明であると主張した場合、人民法院は支持しない。
案件番号
第一審:(2021)京73行初10961号(2022年3月24日)
第二審:(2022)最高法知行終858号(2023年6月20日)
事件の経緯
張氏は、専利番号が201320862896.5であり、名称が「全自動板接合式箱製造装置」の実用新案の利権者である。東莞市の包装機械公司は、2020年9月14日に、当該専利の専利権に対して無効審判請求を提出した。これに対して、国家知識産権権局は、2021年3月29日に、第49013号の無効審判請求に対する決定を下し、具体的に、当該専利が進歩性を備えていないという理由で、当該専利権がすべて無効である決定を下した。張氏は、この決定に不服し、北京知識産権法院に訴訟を提起し、当該専利権がすべて無効である決定を取り消し、国家知識産権権局により改めて審査することを求めた。
北京知識産権法院は、2022年3月24日に、(2021)北京73行初10961号の張氏の訴訟請求を棄却する行政判決を下した。
張氏は、最高人民法院に上訴し、最高人民法院は、2023年6月20日に、以下の(2022)最高法知行終858号の行政判決を下した。
一、北京知識産権法院の(2021)京73行初10961号行政判決を取り消す。
二、国家知識産権権局の第49013号の無効審判請求に対する決定を取り消す。
三、東莞市の包装機械公司の、専利番号が2013020862896.5であり、名称が「全自動板接合式箱製造装置」という実用新案に対して提出した無効審判請求について、国家知識産権権局が改めて審査する。
裁判理由
専利法第26条第4項の規定により、請求の範囲は、明細書の記載を根拠とし保護範囲を明確かつ簡潔に限定しなければならない。請求の範囲は、文字で技術方案を表現するものであり、文字表現と実際の技術方案の間に不可避の差異があるため、請求の範囲が明確であるか、明らかな誤記があるか、及びその具体的な意味について、当業者の立場で判断し、保護範囲を確定しなければならない。
当業者は、請求の範囲及び明細書を読み、請求の範囲に誤記があったが、明確に保護範囲を確定できれば、当該保護範囲が当業者にとって明確であると認定しなければならない。ただし、保護範囲の不当な拡大や縮小を回避し、権利の安定性を確保するために、誤記に対する解釈は、明らかな誤記に対するものでなければならない。明らかな誤記は、当業者が請求項を読んで、持っている一般的な技術知識に基づいて技術的特徴に誤記があることを発見することができ、また、明細書及び図面と持っている一般的な技術的知識とから考えて、唯一の正解を確定することができる程度の誤記を指す。
対象専利において、以下の請求項が記載されている。
【請求項5】
右側板搬送装置にガイドレールが設置されていることを特徴とする請求項4に記載の全自動板接合式箱製造装置。
【請求項6】
前記ガイドレールがオープンタイプリニアガイドレールであることを特徴とする請求項5に記載の全自動板接合式箱製造装置。
【請求項7】
前記ガイドレールがクローズドタイプリニアガイドレールであることを特徴とする請求項6に記載の全自動板接合式箱製造装置。
請求項6と請求項7の関係から考えれば、請求項6に記載のガイドレールが「オープンタイプリニアガイドレール」であり、請求項7が請求項6を引用するが、それに記載のガイドレールが「クローズドタイプリニアガイドレール」であるため、請求項7に記載のガイドレールがオープンタイプかそれともクローズドタイプか、不明である。
しかしながら、明細書及び図面から考えれば、明細書の0160段落の実施例1に「前記底板搬送装置にオープンタイプリニアガイドレールであるガイドレールが設置される」が記載され、明細書の0162段落の実施例2に「実施例1と異なるのは、ガイドレールがクローズドタイプリニアガイドレールである」が記載されているため、当業者は、明細書及び図面を読んで、当分野の一般的な技術知識に基づいて、請求項7に記載の「オープンタイプリニアガイドレール」が、実質的に請求項5における「ガイドレール」を限定するものであると明らかに確定できる。請求項7に記載の「請求項6に記載の全自動板接合式箱製造装置」は明らかな誤記であり、請求項7の保護範囲は当業者にとって明確である。
ソース:IPRlearn
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